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ハロゲン交換

古くからある重要な合成法のひとつ、ハロゲン交換によるヨウ素化反応①:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 12

マナックが得意とする、臭素化・ヨウ素化反応について解説する本シリーズ。前回までは、NBSやDBDMHなどのN-ブロモ化合物を用いた「臭素化反応」をくわしく解説してきました。

N-ブロモ化合物などの臭素化剤によって生成される臭化物は、医薬品や半導体など、さまざまな分野の中間体として活躍しています。そして、これらの産業において臭化物と並んで重要なのが、ヨウ化物です。今回からは、ヨウ化物をつくるための「ヨウ素化反応」に焦点を当てていきます。

最初に取り上げるのは、「ハロゲン交換」を用いたヨウ素化反応です。ハロゲン交換はヨウ化物の重要な合成法のひとつで、古くからさまざまな場面で用いられてきました。ヨウ素化反応を設計する上で、ハロゲン交換に関する知識は非常に重要だと言えます。

今回の記事では、ハロゲン交換によるヨウ素化の概要に触れた後、具体的なヨウ素化反応の種類や反応機構を説明します。本記事を参考にして、ハロゲン交換への理解を深めてください。

ハロゲン交換によるヨウ素化反応とは

塩化物や臭化物をヨウ化物に変換する方法

ハロゲン交換は、化合物中のあるハロゲン原子を別のハロゲン原子に変換する方法です。今回の場合は、塩素原子や臭素原子をヨウ素原子に変える方法を指します。

「わざわざハロゲン交換を用いなくても、化合物中に直接ヨウ素原子を導入すればいいのでは」と思うかもしれません。確かに、そのような方法もあります。例えば、単体ヨウ素(I2)をヨウ素化剤として使用すれば、アルカンやアルケンなどを直接ヨウ素化することは可能です。しかし、単体ヨウ素は反応性が低く、ヨウ素化できる化合物は限られてしまいます。そこで、ハロゲン交換反応が活躍するのです。

反応の原理

ハロゲン交換反応にはいくつか種類があります。なかでもヨウ素化反応で主に使用されるのが、「Finkelstein(フィンケルシュタイン)反応」2)です。

Finkelstein反応は、ハロゲン化合物中のハロゲン原子を二分子求核置換反応(SN2反応)によって別のハロゲン原子と交換する反応です。適用できる基質の範囲が広いため、古くからヨードアルカンなどの合成に利用されています。

反応の原理は以下のとおりです。

極性溶媒(アセトン、2-ブタノン、DMF、HMPAなど)中で、塩化物や臭化物に過剰のヨウ化アルカリを作用させます。極性溶媒中におけるハロゲン化物イオンの求核性はCl<Br<Iの順に増加するため、SN2反応によりヨウ化物が生成します。Iはすぐれた脱離基でもあるため、この反応は可逆的です。

R-X + NaI ⇌ R-I + NaX                 X = Cl, Br

上記反応式中の化合物のうち、NaIは有機溶媒に比較的よく溶けますが、NaClやNaBrは一般に難溶で、結晶として反応系から容易に析出します。例えば、NaIは室温でアセトンに1.29 mol/L溶けますが、NaClはわずか5.5×10-6 mol/Lしか溶けません。そのため、上記反応の平衡は大きく右側に移動し、生成物であるヨードアルカンが効率的に得られるのです(収率は60~100%)。

ただし、第三級ハロゲン化アルキルを基質とした場合は、部分的な異性化や脱ハロゲン化水素によるアルケンの生成をともないやすいことが知られています。反応系に少量のFe2Cl6やZnCl2を共存させれば、これらの副反応をある程度抑制できます。

反応溶媒としてはアセトンが最適

ハロゲン-ヨウ素交換を行うための溶媒としては、アセトンが最適です。室温のアセトン中における臭化メチルとNaIのハロゲン交換反応は、水溶液中に比べて520倍、メタノール溶液中に比べて370倍も速く進行します。

どのようなヨウ素化反応に利用されるか

ハロゲン交換は、以下のようなヨウ素化反応に活用されます。次回以降の記事では、各反応の詳細を解説する予定です。

①ヨードアルカンの合成

Finkelstein反応を利用して、クロロアルカンやブロモアルカンをヨードアルカンに変換する方法です。上述のように、極性溶媒中でヨウ化アルカリと反応させるのが一般的です。

②酸ヨウ化物の合成

「ヨードアルカンの合成」と同じく、Finkelstein反応を用いた合成方法です。ただし、ヨードアルカンの場合とは異なり、第三級の酸ハロゲン化物に対しても問題なくハロゲン交換が行えます。

③ヨードアレーンの合成

ハロゲン置換基のオルト位またはパラ位に電子求引基が存在する場合、Finkelstein反応によりヨードアレーンを合成できます。ベンゼン環上に電子供与基がある場合は求核置換反応が起こりにくいため、Grignard試薬などを使用します。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Finkelstein, H. Ber. 1910, 43, 1528.
3) Kuwajima, I., Urabe, H. Org. Synth. Coll. Vol. VIII, 486(1993)
4) Schmidt, A. H., Russ, M. et al. Synthesis, 1981, 216.
5) Bunnett, J. F., Conner, R. M. J. Org. Chem., 1958, 23, 305; Org. Synth. Coll. Vol. V, 478(1973).

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