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ハロゲン交換

ヨードアルカンの合成:ハロゲン交換によるヨウ素化反応②:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 13

医薬品原薬や抗菌剤、電子材料など、さまざまな分野の中間体として活躍するヨウ化物。そのヨウ化物を合成する上で重要なのが、ハロゲン交換反応です。

ハロゲン交換は、直接ヨウ素化しにくい化合物を間接的にヨウ素化するための方法です。比較的多くの基質に適用できる便利な方法として、さまざまな場面で活用されてきました。ハロゲン反応に関する基礎知識は、ヨウ素化反応を学ぶ上で欠かせないと言えるでしょう。

本記事では、ハロゲン交換によるヨウ素化の代名詞とも言える「ヨードアルカンの合成反応」を取り上げます。反応機構や反応例をくわしく解説しますので、ぜひ研究活動に役立ててください。

■ この記事でわかること
✔ Finkelstein反応では、試薬としてNaIやKIが使われるが、ヨウ素イオン濃度を高めるために、MgI2やCaI2を使用することもある 
✔ フルオロアルカンは反応性が低いため、通常のヨウ化アルカリでは反応しにくいが、ヨードトリメチルシランを使用すると、ヨードアルカンが得やすくなる  
✔ ジヨードメタンは鉱物の密度測定に利用されるほか、反応試薬としてアルケンをシクロプロパン化できるため、医薬品原薬メーカーにも活用されている

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ハロゲン交換とは

塩化物や臭化物をヨウ化物に変換する方法

ハロゲン交換は、化合物中のあるハロゲン原子を別のハロゲン原子に変換する方法です。今回の場合は、塩素原子や臭素原子をヨウ素原子に変える方法を指します。

ハロゲン交換反応にはいくつか種類があります。なかでもヨウ素化反応で主に使用されるのは、ハロゲン原子を二分子求核置換反応(SN2反応)によって別のハロゲン原子と交換する「Finkelstein(フィンケルシュタイン)反応」2)です。反応式を以下に示します。

R-X + NaI ⇌ R-I + NaX                           X = Cl, Br

Finkelstein反応は適用できる基質の範囲が広いため、古くからヨードアルカンなどの合成に利用されてきました。くわしい反応原理に関しては、こちらの記事をご覧ください。

ハロゲン交換によるヨウ素化反応:ヨードアルカンの合成

反応の詳細

今回紹介するのは、ハロゲン交換によりヨードアルカンを合成する反応です。フルオロアルカンは一般に反応性が低いため、一般的にはクロロアルカンやブロモアルカンを反応物として使用します。反応の詳細は以下の通りです。

①クロロアルカンまたはブロモアルカンを反応物とする場合

クロロアルカンまたはブロモアルカンに対しては、Finkelstein反応を利用する方法が一般的です。アセトン、メタノール、アセトニトリルなどの極性溶媒中で、クロロアルカンやブロモアルカンをヨウ化アルカリと反応させます2)~4)。試薬としてはNaIやKIが一般的ですが、ヨウ素イオン濃度を上げたい場合にはMgI2やCaI2を利用する場合もあります。

以下に、Finkelstein反応によるヨードアルカンの合成例を示します。

そのほかにも以下のようなハロゲン交換反応が知られています。

・第三級ハロゲン化アルキルなどに対するハロゲン交換反応

第三級ハロゲン化アルキルやα-ブロモケトン、α-ブロモカルボン酸などを反応物とする場合は、還流下でヨウ化水素酸と加熱したり、酢酸中でKIと加熱したりするハロゲン交換反応も行われます。ただし、第三級ハロゲン化アルキル中のハロゲン原子はヨウ素原子による置換後に還元的に除去されることがあるため、反応条件には注意が必要です。

第三級ハロゲン化アルキルに対しては、以下のように、塩化鉄(III)を触媒として二硫化炭素中で反応を行う方法も報告されています。

・有機金属化合物を使用するハロゲン交換反応

ハロゲン原子からヨウ素原子への直接交換が難しい化合物に対しては、ハロゲン化アルキルをいったんGrinard試薬や有機リチウムに変換した後に、ヨウ素で処理する方法(間接的なハロゲンーヨウ素交換反応)も使用されます。

この方法は高純度のヨードアルカンを合成するのに適していますが、コストがかかるというデメリットもあります。そのため、実際は特殊なヨウ素化合物の合成にのみ使用されています。

・気相と固相の接触によるハロゲン交換反応

クロロアルカンやブロモアルカンの蒸気を、アンモニウムまたはホスホニウムヨウ化物と接触させてハロゲン交換させる方法です。

②フルオロアルカンを反応物とする場合

フルオロアルカンは一般に反応性が低く、ヨウ化アルカリとは反応しにくい化合物です。しかし、フルオロアルカンにヨードトリメチルシラン(CH3)3SiIを作用させると、穏やかな均一系条件下でフッ素原子とヨウ素原子の交換が起こり、ヨードアルカンが好収率で得られます。この反応は、以下のように五配位のケイ素中間体を経由して進むと考えられています。

第三級フルオロアルカンを反応物とした場合は、上記反応が容易に進行します。しかし、第一級および第二級フルオロアルカンの反応は遅く、異性化をともないやすいと報告されています。また、この方法は第三級クロロアルカンにも適用できます10)

ヨードトリメチルシランの代わりに、ヘキサメチルジシラン[(CH3)3Si]2-ヨウ素からin situに発生させた試薬や、クロロトリメチルシラン(CH3)3SiCl-NaIからin situに発生させた試薬を使用しても、同様の結果が得られます。

医薬品や鉱物分析などの分野で活躍する、ジヨードメタン

本記事でご紹介したハロゲン交換反応を利用すれば、分子内にヨウ素原子をふたつ持つ「ジヨードアルカン」も合成できます。ジヨードアルカンは、さまざまな分野で活躍する重要な化合物です。

例として、最も単純なジヨードアルカンである「ジヨードメタン」の用途をいくつかご紹介しましょう。

ひとつ目の用途は、鉱物の分析です。ジヨードメタンは密度が比較的大きいため(3.325g/cm3)、鉱物をはじめとする固体試料の密度測定や重液分離に用いられます。

ふたつ目は、反応試薬としての利用です。ジヨードメタンを使えば、以下のようにアルケンをシクロプロパン化できます(シモンズ・スミス反応)。

実は、医薬品原薬中には、このようなシクロプロパン骨格がよく見られます。原薬を標的タンパク質にうまく結合させる上で、シクロプロパン骨格が重要な役割を果たすためです。そのため原薬メーカーでは、原薬化合物内にシクロプロパン骨格を形成するため、ジヨードメタンが活用されています。

マナックでは、原薬メーカー向けに、「ジヨードメタンの提供からシクロプロパン化反応の実施、副生物として発生するヨウ素の回収・リサイクル」までを一括で請け負うビジネスを展開しています。詳細は、以下の記事をご覧ください。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Finkelstein, H. Ber. 1910, 43, 1528.
3) Tundo, P., Venturello, P. Synthesis, 1979, 952.
4) Clark, J. H., Jones, C. W. et al. J. Chem. Res., 1989, 238.
5) Letsinger, R. L., Traynham, J. G. J. Am. Chem. Soc., 1948, 70, 2818.
6) Swallen, L. C., Boord, C. E. J. Am. Chem. Soc., 1930, 52, 651.
7) Bordwell, F. G., Brannen, jr., W. T. J. Am. Chem. Soc., 1964, 86, 4645.
8) Rheinboldt, H., Perrier, M. J. Am. Chem. Soc., 1947, 69, 3148.
9) Miller, J. A., Nunn, M. J. J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1976, 416.
10) Olah, G. A., Narang, S. C. et al. J. Org. Chem., 1981, 46, 3727.

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