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ヘテロ環化合物

ヘテロ環化合物のヨウ素化の概要と反応:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 23

これまで数回にわたり、単体ヨウ素を用いた芳香族化合物・脂肪族化合物のヨウ素化反応を解説してきた本シリーズ。記事を通して読むことで、単体ヨウ素を用いる場合の特徴や注意点、メリット・デメリットを体系的に理解できましたでしょうか。

いよいよ今回で、単体ヨウ素を用いたヨウ素化反応を扱うのは最後となります。最終回は、ヘテロ環化合物のヨウ素化です。論文をもとにさまざまな反応例を解説しますので、ぜひ実験の参考にしてください。

単体ヨウ素によるヘテロ環化合物のヨウ素化とは

ヘテロ環化合物には、フランやピランに代表される含酸素ヘテロ環化合物、チオフェンなどの含硫黄ヘテロ環化合物、アゾールやアジンをはじめとする含窒素ヘテロ環化合物など、さまざまな構造のものがあります。構造的な変化の拡がりが大きく、それに応じて反応性も多様なため、ヨウ素化を画一的に論じることはできません。

そこで今回は、実験室でよく使われる「五員および六員ヘテロ環化合物」に絞り、それらの代表的な反応例を示します。

反応例①:過酸化水素を使用した、効率的かつ環境にやさしい合成法

水中で過酸化水素の存在下、五員ヘテロ環化合物を単体ヨウ素と反応させると、ヨウ化物が非常に好収率で得られます2)。この方法は効率的で環境にやさしく、また反応生成物は有機合成や医薬などへの応用が期待できるそうです。

反応例②:カルベン錯体の前駆体として適したヨウ化物が得られる合成法

ジクロロメタン中で単体ヨウ素と酢酸銀を反応させて、さまざまなヘテロ環化合物を選択的にヨウ素化する方法です3)。穏やかな条件下で、安価かつ効率的にヨウ素化できる点がメリットとのこと。反応生成物は、N-ヘテロカルベン錯体の前駆体として適しています。

反応例③:非常に穏やかな条件で反応させる方法

炭酸ナトリウムの存在下で反応を行う方法です。室温で2時間という穏やかな条件で進行します。Loidreauら4)は本反応を、ピリミジン環の4位を1級または2級アミノ基で置換した化合物(4-アミノピリド[2’,3’:4,5]フロ[3,2-d]ピリミジン類)を合成する際の出発反応として用いています。

反応例④:ウラシルをヨウ素化する方法

RNAを構成する塩基のひとつ、ウラシルをヨウ素化する反応例です5)。硝酸アンモニウムセリウム(IV)の存在下で単体ヨウ素とウラシルを反応させると、ウラシルの5位がヨウ素化されて5-ヨードウラシルが生成します。

【コラム】放射線の効果を高めるヨードウラシル

反応例④の生成物として紹介した、5-ヨードウラシル。この化合物、実はがん治療と関わりがあることをご存じですか?

がん治療の選択肢のひとつに、放射線治療があります。これは、X線や電子線、γ線などの放射線を患部に照射して、がん細胞のDNAに損傷を与え、がん細胞を死滅させる治療法です。がん細胞は正常細胞に比べて放射線によるダメージを受けやすいため、放射線を使えば、正常細胞への副作用を抑えながら治療を進めることができるのです。

放射線治療の効果を向上させるには、がん細胞の放射線感受性を高める必要があります。この目的で併用されるのが、放射線増感剤です。実は先ほど紹介した5-ヨードウラシルも、放射線増感剤としての機能を示すことが知られています。

2016年には京都大学や東北大学などからなる研究グループが、5-ヨードウラシルに強力なX線パルスを照射することで、X線を吸収した5-ヨードウラシルから多数の高エネルギーイオンと低エネルギー電子が生成する機構を明らかにしたと発表しました。プレスリリース6)には、この研究によって、5-ヨードウラシルが放射線増感効果を示すメカニズムが分子レベルで解明されたと記載されています。

ヨウ化物は、さまざまな分野で活躍しているのですね。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Gallo, R. D. C., Ferreira, I. M. et al. Tetrahedron Lett., 2012, 53, 5372.
3) Iglesias, M. et al. Tetrahedron Lett., 2010, 51, 5423.
4) Loidreau, Y. et al. Tetrahedron Lett., 2012, 53, 944.
5) Asakura, J., Robins, M. J. J. Org. Chem., 1990, 55, 4928.
6) 京都大学(2016)、「X線自由電子レーザーの超短パルスでリボ核酸塩基分子中の電荷と原子の動きを可視化-ヨウ化ウラシルによる放射線増感効果の機構解明-」、https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2016-07-04-0

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