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ヨウ化アルミニウム

ヨウ化アルミニウムを用いたヨウ素化反応:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 27

医薬品原薬や抗菌剤、電子材料などの中間体として活躍するヨウ化物。ヨウ化物を合成する際には、単体ヨウ素やヨウ化アルカリなど、目的に応じてさまざまなヨウ素化剤が使われています。

今回取り上げるのはそんなヨウ素化剤のひとつ、「ヨウ化アルミニウム」です。

実はこのヨウ化アルミニウム、あるヨウ素化反応の問題点を解決してくれる優れものです。そのため、ヨウ化アルミニウムに関する基礎知識は、ヨウ素化反応を学ぶ上で重要だと言えるでしょう。

ヨウ化アルミニウムとは

ヨウ化アルミニウムAl2I6は湿気に敏感な微黄色の粉末で、融点は191℃、密度は3.980。市販されていますが、Al2Cl6とは違ってやや高価です。そのため、アルミニウム粉末へヨウ素を作用させてin situに発生させたものがよく使用されます。

ヨウ化アルミニウムを用いたヨウ素化反応

アルケンやアルキンのヒドロヨウ素化

ヨウ化アルミニウムは、アルケンやアルキンをヒドロヨウ素化するのに便利な試薬です。反応例を以下に示します。

アルコールからヨードアルカンへの変換

通常、アルコールをヨードアルカンに変換するには、ヨウ化アルカリと無機酸の組み合わせやHIが使用されます。しかし、好結果を得るには試薬を過剰に使用する必要があるため、むだが多い点が課題でした。さらに酸性条件下では、炭素骨格の異性化や、反応過程でわずかに発生するヨウ素による副反応誘発なども問題視されていました。

そこで登場するのが、ヨウ化アルミニウムです。ヨウ化アルミニウムを使用すれば、上記の課題を回避できるのです。非常に優れた試薬だと言えるでしょう。

ヨウ化アルミニウムを使用する場合、第三級アルコール、アリルおよびベンジルアルコールはすみやかに反応します。しかし、第一級および第二級アルコールは反応の進行が遅く、vic-ジオールは脱酸素を受けてアルケンに変わりやすいため注意が必要です。

以下に、ヨウ化アルミニウムを用いた場合の反応例を示します。

エーテルやエポキシドの開裂

ヨウ化アルミニウムは、エーテルやエポキシドなどの開裂にも使用できます。Al2Cl6やAl2Br6よりも位置選択性が優れており、目的の生成物が好収率で得られると言います。少量のヨウ化テトラブチルアンモニウムと組み合わせると反応時間が著しく短縮される点も、大きなメリットです4)5)

ヨウ化アルミニウムを用いたエーテルの開裂反応例を、以下に示します。

【コラム】半導体プロセスでも活躍するヨウ化アルミニウム

本記事で紹介したヨウ素化剤、ヨウ化アルミニウム。実は、半導体の製造にも使われていることをご存じですか?

ひとつ目の用途は、AIN(窒化アルミニウム)薄膜の形成です。半導体製品を製造するには、シリコンやサファイアなどの基板上にさまざまな材料の薄膜を形成する必要があります。その材料のひとつが、AINです。

近年、高品質なAIN薄膜の形成方法が多数報告されています。しかし、これらは発火の危険性があったり、1000℃以上の高い成膜温度が必要であったりなど、実際の使用を考えると課題がある方法ばかりでした。そのため、発火の危険性がなく、かつ低温で実施できるAINの成膜方法が求められていました。

この課題を解決するための一案が、ヨウ化アルミニウムを材料とする成膜方法です。静岡大学・岩根 浩樹氏らの研究グループは、大気圧CVD法(化学気相成長法)を使い、ヨウ化アルミニウムを安全かつ低温でサファイア基板上に成膜する手法を開発7)。この手法により形成したAIN薄膜は、応力が大幅に緩和された良好な状態だったと言います。

ふたつ目は、イオン注入工程での使用です。半導体の製造プロセスには、シリコンなどの真性半導体に不純物イオンを注入してその特性を変化させる「イオン注入」工程が存在します。

従来、真性半導体にアルミニウムイオンを注入する場合は、AINやAl2O3(アルミナ)をイオン化してアルミニウムイオンを生成する方法が使用されてきました。対して、米国の半導体関連企業AXCELIS TECHNOLOGIESは、ヨウ化アルミニウムをイオン化する手法を開発8)。これにより、イオン注入システムの性能向上に成功したと言います。

有機化学分野では主に触媒として知られるヨウ化アルミニウムですが、半導体分野でも今後大きな功績を残してくれるかもしれませんね。

参考文献 

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Dutta, D. K., Lekhok, K. C. et al. Chem. Ind. (London), 1991, 175.
3) Sarmah, P., Barua, N. C. Tetrahedron, 1989, 45, 3569.
4) Bhatt, M. V., Babu, J. R. Tetrahedron Lett., 1984, 25, 3497.
5) Andersson, S. Synthesis, 1985, 437.
6) Eisch, J. J., Liu, Z. et al. J. Org. Chem., 1992, 57, 5140.
7) 岩根浩樹ほか、「ヨウ化アルミニウムを原料とした大気圧CVDによるAlN薄膜の作製」、https://www.jstage.jst.go.jp/article/pcersj/2008S/0/2008S_0_3C09/_article/-char/ja/
8) 特表2020-522838「イオン原料物質としてヨウ化アルミニウムを使用する場合の水素共ガス」

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