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半金属

半金属のヨウ化物を用いたヨウ素化反応:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 28

これまで数回にわたり、金属ヨウ化物を用いたヨウ素化反応を解説してきた本シリーズ。いよいよ今回で、金属ヨウ化物を扱うのは最後となります。

最終回は、半金属のヨウ化物を用いたヨウ素化反応です。

半金属のヨウ化物は、反応性が高くて酸素親和性に富むため、穏やかな条件下でのヨウ素化合物の合成に利用されています。今回は、ケイ素のヨウ化物「ヨードシラン」とホウ素のヨウ化物「ヨードボラン」を用いたヨウ素化反応を解説します。

実験室でよく使用される「ヨードトリメチルシラン」や「三ヨウ化ホウ素」についてもくわしく取り上げますので、最後までぜひご覧ください。

ヨードシランの特徴とヨウ素化反応

① ヨードトリメチルシラン

概要

ヨードトリメチルシラン(CH3)3SiI(沸点:106℃、密度:1.406)は穏やかなLewis酸試薬で、エーテル、エステル、アセタール、カルバメートなどの保護基を取り除くのに使用されます。

試薬としても市販されていますが、やや高価なので、近年はアセトニトリル中でクロロトリメチルシランとNaIからin situに発生させたものを使用するようになりました2)。低温の中性条件下で試薬を発生させて直ちに使用する場合は、3,6-ビス(トリメチルシリル)-1,4-シクロヘキサジエンにヨウ素を作用させる方法も便利です3)

ただし、ヨードトリメチルシランは湿気に敏感かつ、触ると皮膚を激しく侵します。取り扱いには注意しましょう。

ヨウ素化合物の合成

アルコールにヨードトリメチルシランを2等量作用させると、ヨードアルカンが好収率で得られます。そのためヨードトリメチルシランは、酸に対して敏感なアルコールをヨウ素化合物に変換するのに適しています4)

また、ケトンをエノールホスフェートに変えた後にヨードトリメチルシランを作用させると、1-ヨードアルケンが得られます6)。本反応の一般法は以下のとおりです。

ヨードトリメチルシランは、以下のようにアルケンのヒドロヨウ素化やラクトンのヨウ素化開裂にも適しています。

ジヨードシラン

概要

ジヨードシランSiH2I2(融点:-1℃、沸点:149.5℃;56~60℃/25mmHg、密度:2.7943、引火点:38℃)は、湿気に敏感な無色の液体です。一般にはフェニルシランに低温でヨウ素を作用させて調製しますが、試薬として市販もされています。

ヨウ素化合物の合成(他試薬との比較)

ジヨードシランもヨードトリメチルシランと同じく、アルコールからのヨウ素化合物合成に利用できます。しかし、両者の反応性は少し異なります。

Keinan9)は、ジヨードシラン、ヨードトリメチルシラン、HIの3試薬を対象に、アルコールのヨウ素化における反応性を比較しました。その結果、以下のように、試薬に応じて反応性が異なることが判明したのです。

試薬 反応性
ジヨードシラン 第二級アルコール >> CH3OH > 第一級アルコール
ヨードトリメチルシラン CH3OH > 第一級アルコール > 第二級アルコール
HI

Keinanはこの結果から、ケイ素原子のLewis酸性がジヨードシラン > ヨードトリメチルシランであるのに対し、ヨウ素原子の求核性はヨードトリメチルシラン > ジヨードシランであると考えました。これにより、ヨードトリメチルシランを用いた場合は反応がSN2経路で進行し、ジヨードシランの場合は部分的にSN1の性質を示す可能性があるとしたのです。

以下に、ジヨードシラン、トリメチルシラン、HI、P2I4の、第一級および第二級アルコール基に対する反応性を比較した表を示します9)

トリクロロヨードシラン

概要

トリクロロヨードシランSiCl3I(融点:< -60℃、沸点:114.5℃)も、湿気に敏感な無色の液体です。SiCl4にNaIやHIを作用させると発生します。

ヨウ素化合物の合成

トリクロロヨードシランは、BBr3や9-Br-9-BBNとは逆方向にエーテルを開裂します。トリメチルヨードシランよりも位置選択性が高い点が特徴です。

ヨードボランの特徴とヨウ素化反応

① 三ヨウ化ホウ素

概要

三ヨウ化ホウ素BI3(密度:3.350)は、湿気に敏感な重い液体です。皮膚や粘膜を激しく侵すので、触れてはいけません。アミン錯体に変えると、安定化されて扱いやすくなります。

ヨウ素化合物の合成

三ヨウ化ホウ素は、BBr3と同様にエーテル結合やエステル結合を低温で容易に開裂するため、ヨードアルカンの合成に利用されます。反応例は以下のとおりです。

【コラム】半導体製造工程で活躍するハロシラン

本記事でヨウ素化剤として紹介した、ジヨードシラン。実は、ジヨードシランを含むハロシラン類は、半導体の製造プロセスでも活躍していることをご存じですか?

半導体を製造するには、CVD法(化学気相成長法)やALD法(原子層堆積法)などを用いて基板上にケイ素含有膜を形成する必要があります。ハロシラン類は、このケイ素含有膜の原材料として使用されているのです。

成膜原料として活用するには、ハロシラン類を工業スケールで効率的に製造する必要があります。そのため、近年ではジヨードシランを大規模・安全・効率的に製造する仕組みも考案されています(特開2020-063176など)。

今や、コンピュータやスマートフォン、家電製品など、周囲の多くの製品に組み込まれている半導体。これらの製品を使う際には、ぜひハロシランに思いを馳せてみてくださいね。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Olah, G. A., Narang, S. C. et al. J. Org. Chem., 1979, 44, 1247.
3) Jung, M. E., Blumenkopf, T. A Tetrahedron Lett., 1978, 3657.
4) Jung, M. E., Ornstein, P. L. Tetrahedron Lett., 1977, 2659.
5) Morita, T., Yoshida, S. et al. Synthesis, 1979, 379.
6) Lee, K., Wiemer, D. F. Tetrahedron Lett., 1993, 34, 2433.
7) Irifune, S., Kibayashi, T. et al. Synthesis, 1988, 366.
8) Poleschner, H., Heydenreich, M. et al. Synthesis, 1991, 1231.
9) Keinan, Pure Appl. Chem., 1989, 61, 1737.
10) Reddy, Ch. K., Periasamy M. Tetrahedron Lett., 1990, 31, 1919.
11) Povlock, T. P. Tetrahedron Lett., 1967, 4131.

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