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ヨウ化アルカリ

アルコールからヨードアルカンの合成:ヨウ化アルカリを用いたヨウ素化反応②:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 25

前回から、ヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウムに代表される「ヨウ化アルカリ」を用いたヨウ素化反応を取り上げている本シリーズ。ヨウ化アルカリはヨウ素化試薬として幅広く利用されているため、その特徴や用途を知ることは非常に重要です。

今回の記事では、ヨウ化アルカリを使用してアルコールからヨードアルカンを合成する方法を紹介します。アルコールの構造や性質によって反応条件が異なるため少々複雑ですが、内容を整理しながら分かりやすく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。

ヨウ化アルカリを使用したヨウ素化反応:アルコールからヨードアルカンの合成

酸の存在下で反応させる方法

強いプロトン酸を共存させる方法

強いプロトン酸の存在下でアルコールとヨウ化アルカリを反応させると、ヨードアルカンが好収率で得られます。副反応も少ないため、広く利用される方法です。

反応機構は、反応物であるアルコールの構造に応じて異なります。第一級および第二級アルコールを用いた場合は、酸によるプロトン化で発生したオキソニウムイオン中間体[ROH2]+に対してヨウ素イオンがSN2攻撃し、立体化学が反転した生成物が得られます。一方、第三級アルコールの場合は安定なカルボカチオンを経由するSN1機構によって反応が進むため、脱離反応によるアルケンの生成や炭素骨格の異性化をともないやすい点に注意が必要です。

BF3・O(C2H5)2を使用する方法

試薬としてBF3・O(C2H5)2を使用する方法も提案されています2)3)。第三級アルコール、アリルおよびベンジルアルコールは速やかにヨウ化物に変わりますが、第一級および第二級アルコールは反応が遅くなるため、多価アルコールを部分的にヨウ素化したい場合に便利です。

その他の改良法

広範囲の脂肪族および脂環式アルコールにうまく適用でき、異性化やラセミ化をともなわずに好収率が期待できる改良法も提案されています。例えば、アルコールとKI-リン酸4)、NaI-クロロトリメチルシラン5)、KI-ピリジン/多フッ化水素酸6)などを組み合わせる方法があります。

また、ポリフルオロアルコールRfCH2OHはHIやヨウ化水素酸と反応しにくいため、POCl3でいったんリン酸エステルに変えてから、室温でNaIと反応させる方法7)がとられます(以下の式を参照)。

3 RfCH2OH + POCl3 → (RfCH2O)3P=O + 3 HCl
(RfCH2O)3P=O + 3 NaI →3 RfCH2I + Na3PO4

エステルを経由する方法(中性条件下で反応させる方法)

酸に対して不安定なアルコールの場合は、いったんトルエンスルホン酸エステル、メタンスルホン酸エステル、トリメチルシリルエーテルなどに変えて、中性条件下でヨウ化アルカリと反応させるのが無難です。通常は、アセトン、2-ブタノン、DMFなどの溶液中でNaIまたはKIと還流下に加熱する方法が用いられます(以下の反応式を参照)。SN2機構で進行するため、立体配置が反転した生成物が得られる点が特徴です。

より穏やかな反応条件を必要とする環状アルコールのエステルに対しては、エーテル中でMgI2やCaI2と反応させる方法が推奨されています10)。この方法はエノールエステルにも利用できますが11)、第三級アルコールのエステルにはうまく適用できません。

【コラム1】ヨウ化アルカリを含むサプリメントで、ヨウ素不足を補う!

みなさんは、「甲状腺ホルモン」という用語を聞いたことがありますか?甲状腺ホルモンは、タンパク質合成や酵素活性などの多くの生化学反応を調節する重要な物質です。甲状腺ホルモンの合成にはヨウ素が不可欠のため、体内のヨウ素が不足するとさまざまな問題が引き起こされます。

ヨウ素不足を補うためのかんたんな方法が、サプリメントの摂取です。実は、多くのサプリメントにはヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムの形でヨウ素が含まれています12)。ヒトではヨウ化カリウムがほぼ全て吸収されるという研究結果も発表されています13)

ヨウ化アルカリは、私たちの体をヨウ素不足から守る有効な手段でもあるのですね。

【コラム2】医薬品分野で活躍するジヨードメタン

本記事で紹介した反応によって生成する、ヨードアルカン。2つ目のコラムでは、ヨードアルカンの一種である「ジヨードメタン」について紹介します。

ジヨードメタンはさまざまな場所で活躍しています。例えば、以下のようにアルケンをシクロプロパン化する反応では、反応試薬としてジヨードメタンが使用されます(シモンズ・スミス反応)。

実は、医薬品原薬中には、上記のようなシクロプロパン骨格がよく見られます。原薬を標的タンパク質にうまく結合させる上で、シクロプロパン骨格が重要な役割を果たすためです。そのため原薬メーカーでは、原薬化合物内にシクロプロパン骨格を形成するため、ジヨードメタンが活用されています。

マナックでは、原薬メーカー向けに、「ジヨードメタンの提供からシクロプロパン化反応の実施、副生物として発生するヨウ素の回収・リサイクル」までを一括で請け負うビジネスを展開しています。詳細は、以下の記事をご覧ください。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Vankar, Y. D., Rao, C. T. Tetrahedron Lett., 1985, 26, 2717.
3) Mandal, A. K., Mahajan, S. W. Tetrahedron Lett., 1985, 26, 3863.
4) Stone, H., Schechter, H. Org. Synth. Coll. Vol. IV, 323 (1963).
5) Olah, G. A., Narang, S. C. et al. J. Org. Chem., 1979, 44, 1247.
6) Olah, G. A., Welch, J. Synthesis, 1974, 653.
7) Krogh, L. C., Reid, T. S. et al. J. Org. Chem., 1954, 19, 1124.
8) Bailey, W. F., Luderer, M. R. et al. Org. Synth. 81, 121 (2005).
9) Owen, L. N., Saharia G. S. J. Chem. Soc., 1953, 2582.
10) Place, P., Roumestant, M. L. et al. Bull. Soc. Chim. Fr., 1976, 169.
11) Martinez, A. G., Alvarez, R. M. et al. Synthesis, 1986, 222.
12) National Institutes of Health. Dietary Supplement Label Database 2020.
13) Aquaron, R., Delange, F. et al. Cell. Mol. Biol., 2002, 48, 563.

 

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