プロパルギルアルコールからブロモアレンの合成、芳香環のオルト選択的な臭素化:NBSを用いた臭素化反応⑤:N-ブロモ化合物⑦:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 7
マナックが得意とする、臭素化・ヨウ素化反応について解説する本シリーズ。7回目の今回は、NBSを使用したさまざまな臭素化反応を解説します。
今回は、「プロパルギルアルコールからブロモアレンの合成」「芳香環のオルト選択的な臭素化」の2つを取り上げます。前者は、プロパルギルアルコール構造を有する化合物を臭素化してブロモアレンに変換する反応。後者は、金属錯体触媒の共存下で芳香族化合物をオルト選択的に臭素化する反応です。反応機構や反応例などを解説しますので、ぜひ研究や実験に役立ててください。
■ この記事でわかること ✔ プロパルギルアルコールをNBSと反応させると、ブロモアレンが合成できる ✔ アレン類は医薬品で酵素阻害剤や抗ウイルス剤として活性があり、開発が進んでいる ✔ 金属錯体触媒を使うことで芳香環のオルト位が選択的に臭素化される ■ おすすめ記事 ・ コストや副生物を抑えられる魅力的な臭素化剤、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン(DBDMH)とは:N-ブロモ化合物⑧:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 8 ・ カルボニル基のα位の臭素化、カルボン酸と関連化合物の臭素化:NBSを用いた臭素化反応④:N-ブロモ化合物⑥:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 6
contents
N-ブロモスクシンイミド(NBS)とは
取り扱いが容易で、非常によく使用される臭素化剤
NBSは弱い臭素臭をもつ白~微黄色の結晶性粉末で、融点は173~176℃(分解)。アセトン、THF、DMF、アセトニトリル、DMSOなどに可溶で、水や酢酸には微溶、ヘキサンや四塩化炭素には難溶の化合物です。
粉末状で、臭素(液体)と比べて取り扱いが容易なため、有機合成では臭素化剤の第一選択としてよく使用されます。乾いた冷暗所で長期的に保存でき、値段も比較的安価です。
NBSの特徴や注意点、NBSを使用した臭素化反応の概要などに関しては、こちらの記事をご覧ください。
NBSを用いた臭素化反応:プロパルギルアルコールからブロモアレンの合成
反応の詳細
トリフェニルホスフィンの共存下、ジクロロメタン中でプロパルギルアルコールをNBSと反応させると、対応するブロモアレンが中~高程度の収率で得られます。例として、分子内にプロパルギルアルコール構造を有する1-(4-メチルフェニル)-2-へプチン-1-オールをブロモアレンに変換する反応を以下に示します2)。
上記反応において、反応物中の4-メチルフェニル基を4-クロロフェニル基や4-ブロモフェニル基に変えた場合も同様に反応が進行します2)。
【マナックこぼれ話】アレン類の医薬品への応用
分子内に二重結合を2つ有する化合物(ジエン)は、2つの二重結合が1つの単結合で隔てられた「共役ジエン」、2つの二重結合が2つ以上の単結合で隔てられた「非共役ジエン」、2つの二重結合が隣接した「アレン(集積ジエン)」に分類されます。本反応の生成物であるブロモアレンは、アレン中の二重結合を構成する炭素原子に臭素原子が結合した化合物です。
天然のアレン類には生理・薬理活性を示すものが多く、薬理学的に活性なクラスに分類される骨格(ステロイド、アミノ酸、ヌクレオシドなど)にアレン構造を導入した化合物の開発も進められています。このような化合物の中には、酵素阻害剤や細胞毒性剤、抗ウイルス剤としての高い活性を示すものもあります3)。医薬品分野でのアレン構造のさらなる利用のため、今後のアレン誘導体の効率的な合成法の開発が望まれます。
NBSを用いた臭素化反応:芳香環のオルト選択的な臭素化
反応の詳細
本反応の特徴は、金属錯体触媒を使用する点です。
アミド基やピリジル基といった特定の置換基を有する芳香族化合物を、白金族元素(パラジウムやロジウムなど)を含む金属錯体触媒の存在下でNBSと反応させます。すると、オルト位が選択的に臭素化された化合物が中~高程度の収率で得られるのです。本反応は、上記金属錯体触媒がオルト位のC-H結合を活性化することで進行すると考えられています4)。
NBSによる芳香族化合物のオルト臭素化反応例を、以下に示します。
【マナックこぼれ話】触媒を使用して臭素化の位置選択性を向上させる
芳香族求電子置換反応の位置選択性は、すでに導入されている置換基の種類や位置に影響を受けます。複数の反応点を有する芳香環を臭素化する場合は、望まない反応点への臭素化をできる限り防ぐことが重要です。特に、オルト・パラ配向性の置換基を有する芳香環のオルト位またはパラ位を選択的に臭素化するには、数多くの反応条件を検討する必要があります。
今回ご紹介した反応のように、ある種の触媒を使用すれば、アミド基やピリジル基といった特定の置換基を有する芳香環のオルト位を通常よりも高い選択性で臭素化できます。芳香環のオルト位の臭素化の収率を大幅に上げたいときや、より高い品質が求められたときは、触媒を用いた芳香環のオルト選択的な臭素化を検討してみてはいかがでしょうか。
マナックは、代表的なN-ブロモ化合物であるNBSおよびDBDMHを製造・販売しています。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Du, X., Dai, Y. et al. Synth. Commun., 2009, 39, 3940.
3) Hoffmann-Röder, A., Krause, N. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 1196.
4) Schröder, N., Wencel-Delord, J. et al. J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 8298.