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スタッフストーリー

“やってみなはれ精神”で邁進! マナック上海から始まる「世界に向けた商社ビジネス」

2022年にマナック上海の総経理に就任した山下美保さんは、マナックをグローバル化するための一手となる“商社ビジネス”を強化しています。「中国市場には日本にはない可能性がある」。そう語る山下さんに、マナック上海の展望を聞きました。

上海生活を支えるスマホと日本人会

<<山下さんは2022年10月に上海に向かった。「中国語は話せない」という山下さんは、どんな上海生活を送っている?>>

赴任後に週1回程度、中国語の勉強を始めました。日本語でいう「ひらがな」を覚えることからスタートし、なじみのない漢字やピンイン(中国語の発音表記法)に大苦戦しています。当初はどうなることかと心配していましたが、実際に上海で生活してみると、意外にも中国語が話せなくて困ることがないんです。

買い物もタクシーも、すべてがスマホで簡単決済です。生活に必要な日常品も、タクシーの手配も行き先と目的地を入力するだけ。なので中国語を一言も話さなくても生活できることに驚きました。

<<しかし、ビジネスではスマホだけで済まないこともあるのでは?>>

コンサルタントから提出される管理資料は全て中国語で、社内に各分野のスペシャリストはいないので、解析作業はひと苦労です。最近は随分慣れましたが、ビジネスとなるとやはり語学力は必要だなと感じています。

<<中国のビジネスでは“酒”も欠かせない要素?>>

中国のおもてなし文化の代表は「食」だと思います。ビジネスの有無に関わらず、出張に行くと必ず食事の場がセッティングされ歓迎してくれます。こういった場で関係者と交友を深められれば、ビジネスチャンスが増えます。

多くの方が顔をしかめる、中国の蒸留酒・白酒も、私は相性がいいのか、あまり苦ではありません。“白酒が飲める女性の老板(総経理)“は非常に珍しく印象に残るようで、名前を覚えてもらいやすいですね。そうした追い風はうまく活用したいと思っています。

<<上海駐在の日本の会社の人たちとも交流している?>>

上海で会社を経営する上で、日系企業とのつながりも大事にしています。定期的に懇親会があるので、コミュニケーションを取って人脈を広げています。中国は法対応が目まぐるしく変わりますので、外資系企業が対応しなければいけないことを、総経理として判断しなければいけない場合が多々あります。常に他社と情報を交換し共有し合うことで、急な変化にも対応できるように備えています。こういった活動は、上海だけでなく海外駐在員には必要不可欠だなと実感しています。

赴任して1年半が経過しましたが、上海の日系の化学業界で、女性の総経理とお会いしたことがいまだにありません。中国では珍しいことではありませんが、日系ではまだまだ非常に珍しいのかもしれませんね。

中国流のマネジメント

<<総経理になって1年半。山下さんは慣習・文化が異なる中でのビジネスの難しさを感じている>>

日本ではプレイングマネージャーだったので、直属の部下がいませんでした。今回の駐在で初めて部門長としてのマネジメントを経験しています。これがかなり難しくて……。所変われば、思考ややり方も違うんだなと言うことを日々痛感しています。郷に入っては郷に従えと思い、スタッフの主張や意見を尊重しながら、マネジメントするように心掛けています。

でも、頭で分かっていても、ビジネスの判断をする上ではどうしても日本の思考で考えてしまいます。スタッフと意見が異なるときもありますが、まずは慣習や文化を受け入れた上で、判断するようにしています。

<<マナック上海は2016年に設立され、現在は4人体制、うち3人は中国人のスタッフで構成されている>>

実際に駐在する前にも中国人スタッフとは出張ベースでの交流があったので、とても信頼していますし、人間関係は良好だと思います。ただ、私が総経理になったことで、従来とは異なるやり方を理解することや新たな仕事が増えたことで、最初の1年間は戸惑う部分があったように感じました。3人の中国人スタッフのうち2人は、設立時からマナック上海を支えてくれているメンバーですから、それは当然かもしれません。

そこで、「経営者や事業環境が変われば、やり方も変わる」ということを理解してもらうまで、時間をかけ根気強く説明することを意識しました。なぜ今までそうしてきたか、なぜ今後はやり方を変える必要があるのかをお互いに繰り返し会話し続ける。そんなコミュニケーションの中で、今では理解を示して対応してくれるようになったと感じています。

私はたたき上げの世代で、上司や先輩方の後ろ姿を見て育ったので、昭和時代のマネジメントがベースなんですよね。日本での経験もゼロの私が、中国でどのようなマネジメントができるのか、必要なのかを日々学んでいます。

大変なこともありますが、マナック上海だからこそできる仕事のおもしろさを情報発信して、後輩たちが自分から手を上げて上海にチャレンジしたいと思えるような会社にしたいですね。

山下さん(左奥)と中国人スタッフたち(写真提供:山下美保)

中国市場のスピード感

<<マナックの難燃剤関連製品がマナック上海のメイン製品。山下さんは「基盤となる難燃剤の販売は継続しつつ、右肩上がりの会社に成長させるには、ファインケミカル製品の割合を増やしていく必要がある」と言う>>

投資には当然リスクがありますが、その一方で先手を取って攻めていかなくては好機を逃してしまいます。日本企業は99%のリスクについて議論しますが、中国企業は少しの可能性でもビジネスチャンスがあると判断すれば、投資を決定します。日本と比べて、中国は判断するスピードが圧倒的に速いんです。

中国の営業スタイルも、日本とは大きく違います。

為替が円安になれば、値上げせざるを得ない状況になります。その場合、日系企業は理論的に説明がつけば、一定の理解を示してもらえます。しかし、中国企業はそうはいきません。「値上げするなら買わない」と交渉決裂となる可能性が非常に高くなります。また価格は当然のことながら、リードタイムも重要なポイントになので、総合的な判断が必要です。

そこでひるみそうになるのですが、グッとこらえるようにしています。市場の中でマナック製品のポジションを見極めて、優位であれば強く主張するようにしています。

例えば、ファインケミカル製品向けのヨウ素化合物は需要が伸びていますが、天然資源となる原料(ヨウ素)の確保が必須となるので、安易にコスト勝負にせず、安定供給と高品質を武器に商談を進めています。

上海は世界でも有数の商業都市です。常にマナックのプレゼンスの向上と自社製品の価値を高め、世界市場のスピード感についていける企業でありたいと思います。

次の一手は欧州市場への販売

<<中国の景気がコロナ以降回復していないという現状もあり、山下さんはマナック製品の販売に加え、世界に向けた商社ビジネスを展開しようと考えている>>

中国のマンションは、洗濯機や冷蔵庫などの家電付きで販売されます。中国の不動産バブルが弾けて、建設が減少し、必然的に家電の販売数も減りました。マナック上海の主力製品である難燃剤の約8割が家電用なので、昨年度は非常に厳しい1年となりました。

マナック上海は商社なので、日本品の輸入だけでなく中国品の輸出も行います。

グループの強みを生かして、川上工程を中国の協業パートナーで、川下工程をマナックで製造するようなビジネスを作りたいですね。

また、次の一手として欧州向けのビジネスを進めています。デカップリングが強まる世界情勢の中で、海外ユーザーはBCPの観点から中国品を回避する傾向が強くなってきたように感じます。

しかし一方で、世界の台所である中国品の需要が急激に減るとは考えにくく、競合メーカーが少ないニッチな分野で、優れた中国の技術製品を欧州市場向けに売り込み、今後、販路を拡大していきたいと考えています。

かなり難しい挑戦になりますが、“やってみなはれ精神”で継続していこうと考えています。

ビジネスが立ち上がった時の達成感を考えれば、トライするしかありません。マナック上海から世界へ、新しいビジネスの確立に向け、失敗を恐れずに前進していこうと思います。

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