大学とコラボして10年越しのヒット商品/除菌・抗菌効果が1週間持続する Etak®開発秘話
2020年は、除菌や抗菌に気を配る人たちが増えました。不特定多数が出入りする飲食店や事業者のみなさんの中には、スプレーや拭き取りをこまめにしないといけないので、負担に感じている方も多いのではないでしょうか。そんな方に朗報です。除菌と抗菌が一度にできて、その効果が1週間続くうえ、人体に安全な化合物があります。マナックにとって、衛生関連としては初の自社開発製品です。研究所医薬チームリーダーの竹田宏紀さんによる開発の経緯を紹介します。
■ この記事でわかること ✔ マナックは衛生関連の自社開発製品を初めて成功させた ✔ Etak®は抗菌・抗ウイルス効果が約1週間持続する ✔ Etak®の今後の課題はプラスチックへの固着化である ■ おすすめ記事 ・ 臭素、ヨウ素の領域なら私たちの出番がある/村田社長が語るマナックの成長戦略
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初めは口腔内に使う抗菌剤を開発していた
マナックは電子部品材料や医薬品の中間材料になる化合物(中間体)を製造しています。中間体の製造を依頼されるのは多くの場合はメーカーのお客様ですが、2007年に異例の相談が舞い込んできました。相談元は広島大学大学院医歯薬学総合研究科の二川浩樹教授で、「口腔内の抗菌剤を検討しているが、学部内では化合物の合成までできない。それをマナックでやってもらえないか」というものでした。
相談を受けたとき、竹田さんは自社品や自社技術を開発する研究部署にいました。マナックは受託製造が中心の企業で、当時、衛生関連の自社開発製品はありませんでした。竹田さんは入社後に広大薬学部でドクターを取得した縁もあり、二川教授を訪ねる役割を担うことになりました。
1年間、試行錯誤したシラン化合物と4級アンモニウムの反応実験
二川教授の要望は、「シラン化合物と4級アンモニウム塩を併せ持つことで、義歯などの表面に固定化できる抗菌剤をつくりたい」でした。ここから「初の衛生関連の自社開発製品になる可能性がある」と考えた竹田さんの試行錯誤が始まりました。シラン化合物と4級アンモニウム塩、それぞれ数種類を試験管の中で掛け合わせて、安全性と固定化を兼ね備えた抗菌剤を探す模索は1年の時間を要しました。
試験管の中で完成させても製造は終わりません。今度はプラントで安定的に大量生産できるかがハードルになり、特別な生産ラインを決めました。できあがった化合物が基準をクリアしているかを分析するのにさらに時間を要し、2008年に固定化抗菌成分「Etak®」(イータック)が完成しました。
Etak®の特徴とは
以下の3つの特徴があります。
- 持続力が長い除菌効果=エタノールや二酸化塩素製剤、次亜塩素酸製剤より効果が持続し、抗菌・抗ウイルスバリアは約1週間キープ。Etak®溶液で加工したタオルは50回の洗濯後も作用が継続。
- いろいろなウイルス・菌に効き目がある=多数のウイルス(エンベローブ有・無)、菌(グラム陰・陽性菌)、真菌などへの効果を実証済み。
- 安全性が高い=皮膚1次刺激性試験は「無刺激性」、皮膚感作性・変異原性試験は「陰性」、ヒトパッチテストは「安全品」など、各種試験で実証済み。
Etak®は表面に固定化するのが特徴で、繊維にも成分が固着するので、マスクの抗菌にも効果があります。Etak®をスプレーして24時間後に数時間装着したマスクには、微生物の繁殖がほとんど見られませんでした。化粧品成分としても、国際的表示名称に登録されています。
衛生関連では初の自社開発製品の意義と今後の開発
Etak®は2010年に発売され、大手メーカーの抗菌剤材料などとして使われました。売り上げは2019年までは大きくなかったですが、ウイルス対策の重要性が叫ばれる中で需要が増えています。開発途中や今後の課題について、竹田さんに聞きました。
Etak®がにわかに注目を集めていますね。
当初はほとんど売れなかったです。
製造を中止しようという話は社内で出ませんでしたか。
受託製造が多いマナックにとって、自社開発製品を持ちたいという思いは強くあります。たくさんの商材を持っていることも企業にとっては強みになります。ヒット商品ではなかった時代も、製造中止の話は一度もあがりませんでした。
今後はニューノーマルな時代に入り、除菌や抗菌への関心が一層高まるように思います。今後、Etak®を進化させていく考えはありますか。
はい。今後もさらなる開発を続けます。現製品は繊維や木材に対しては効果が長続きしますが、プラスチックなどは抗菌剤が表面に固着化しにくいので、繊維などと比較すると効果が長続きしません。プラスチックにどう固着化させるかは今後の研究課題です。今後の展開にご期待ください。