「もうだめだ」からの形勢逆転!/超原子価ヨウ素化合物「DAIB」の製造コスト削減に向けた熱い挑戦②
【CAS No.】3240-34-4
【化学名】
(ジアセトキシヨード)ベンゼン
【化学式】C10H11IO4
原料や製法を工夫して製造コストを抑え、生産の効率を上げる。世の中の化学メーカーは、製品の生産性を少しでも向上させるために日々努力を続けています。ただし、挑戦には苦労がつきものです。
今回マナックは、とある国内原薬メーカーからの要望を受けて、超原子価ヨウ素化合物「DAIB」の製法改良と製造コスト削減に乗り出しました。しかし、製法の検討を始めてすぐに、大きな壁にぶつかりました。目標の純度になかなか到達しなかったのです。(くわしくは、以下のインタビュー記事をご覧ください)。
検討開始から3カ月が経過しても、目標の純度に届かない日々が続きました。この危機的な状況を、マナックはどう克服したのでしょうか。DAIBの営業担当である田中豪さんと、製法改良プロジェクトで実験を担当した延命千浩さんに話を聞き、当時を振り返ります。
contents
「失敗は成功の母」! ようやくたどりついた高品質・低コストな製造方法
「純度は低いものの、DAIB自体はできている。そこで、反応条件をうまく調整すれば純度が上がるはずだと考え、引き続き製法改良を進めていました。しかし、失敗ばかりで心が折れそうでしたね。『あの日』も、いつも通り失敗すると思って、研究所内の実験室にいました」
その日、延命さんは、とある反応条件で実験をしていました。
いつも通り、DAIBの純度は低かったのですが、延命さんには少し気になることがありました。
「この反応条件は失敗だと判断しましたが、念のため追加実験をしてみたんです」
単なる「おまけ」のつもりで取り組んだという追加実験。しかし、この実験結果をくわしく分析したところ、思わぬヒントが得られました。
「それまでは、ある1つの原料を使って実験を繰り返していました。しかし、この追加実験がきっかけで、より安価な別の原料に変えてもDAIBを合成できるのではと思い立ったのです。その原料を使えば、DAIBの純度を上げられるかもしれない。これまでとは別の、新たな解決ルートが見えた瞬間でした」
実際に原料を変えてみたところ、無事にDAIBをつくることに成功。さらに粘り強く検討を重ねた結果、DAIBの純度をほぼ100%にし、生産性を上げることもできました。今回の製法改良プロジェクトが始まってから、およそ1年後のことでした。
プロジェクトが難航しても決してあきらめなかった延命さんについて、田中さんはこう語ります。
「今回のプロジェクトは、本当に難しいものでした。途中であきらめても仕方なかったと思います。失敗を見過ごさず、粘り強く分析して成功につなげた延命君の研究姿勢には、本当に感服です」
従来と同じ品質のDAIBを、より低コストでつくれるようになったマナック。高品質・低価格なDAIBをこれから積極的にアピールしていきたいと、田中さんは言います。
「とある国内原薬メーカーに今回のDAIBを提供したところ、高品質なので安心して使用できる、と高く評価していただきました。今後は、DAIBを使用するさまざまな国内外原薬メーカーで、マナックの新しいDAIBを使ってもらいたいですね」
ヨウ素をリサイクルしてSDGsに貢献したい
一般的な化学メーカーであれば、DAIBを「つくって売る」で終わりでしょう。しかし、マナックはさらに先を見据えています。それが、副生物のリサイクルです。
「DAIBを使用した後の廃液には、ヨードベンゼンと呼ばれる副生物が含まれています。ヨードベンゼンはDAIBの原料でもあるため、うまく回収して精製すれば、そこからまたDAIBを製造できる。こういったリサイクルが私たちの最終目標です」と、田中さんは意気込みを語ります。
「実はここ数年、世界的にヨウ素の需要が高まっており、ヨウ素の入手が困難な状況となっています。このような状況下で安定してヨウ素を確保する意味でも、リサイクルは重要です。また当然ですが、貴重な天然資源であるヨウ素のリサイクルはSDGsにもつながります。単に製品をつくるだけではなく、原料の調達方法や地球環境への影響などを含めて総合的に検討する。これが、マナックの強みですね」(田中さん)
世界的に一定の市場が存在し、酸化剤以外の用途への広がりも期待されるDAIB。マナックは今後も、DAIBの製造・販売に力を入れていきます。
マナックが誇る熱い研究者魂
「もうだめだ」と思っても決してあきらめない。今回の成果は、そんなマナック研究者の粘り強さによって生み出されました。
失敗という壁を何度も乗り越えながら、日々さまざまな研究を続けるマナックの研究者たち。その目は、常に未来を見つめています。