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技術・特許

毒性が低く、医療品原薬の製造には欠かせない! 超原子価ヨウ素化合物「DAIB」とは

技術・特許, 製品

1986

【CAS No.】3240-34-4
【化学名】(ジアセトキシヨード)ベンゼン
【化学式】C10H11IO4

医薬品の有効成分である「原薬」は、さまざまな化学反応を経て合成されます。この合成過程で「酸化剤」と呼ばれる試薬として活躍するのが、マナックが製造する超原子価ヨウ素化合物「DAIB」です。


「超原子価ヨウ素化合物」とは耳慣れない用語ですが、一体どのような性質の化合物なのでしょうか。そして、DAIBはなぜ原薬の製造に使われるのでしょうか。実は、DAIBには従来の酸化剤にはない素晴らしいメリットがあるのです。その秘密に迫ってみましょう。

超原子価ヨウ素化合物とは

「超原子価ヨウ素化合物」は、名前のとおり「超原子価」を持つ「ヨウ素化合物」です。ここで、「ヨウ素化合物」はヨウ素原子(I)を含む化合物です。それでは、「超原子価」とは一体何なのでしょう。

はじめに、「原子価」について説明しましょう。「原子価」とは、ある原子が持つ「手」の数のようなもので、その原子がほかの原子との間に形成できる結合の数に相当します。ヨウ素原子の原子価は通常「1」です。例えば、ヨウ化水素(HI)中のヨウ素原子は水素原子との間に結合を1つのみ形成します。

「超原子価」は、ある原子の原子核から最も遠く離れた電子殻(ほかの原子との結合に関係する部分)が形式的に8つ以上の電子をもつことで、ほかの原子との間により多くの結合が形成できるようになった状態のことです。例えばヨウ素原子は、超原子価状態になると、以下のように複数の原子と結合できるようになります。このような超原子価状態をとるヨウ素を含む化合物が、「超原子価ヨウ素化合物」なのです。

超原子価ヨウ素化合物には、多くのすぐれた特徴があります。これらは一般には安定な化合物で、揮発しにくく取り扱いが簡単です。また、反応性が高いため、通常は困難な反応を進行させることもできます。さらに、毒性をほとんど示さない環境にやさしい化合物でもあります。

最も基本的な超原子価ヨウ素化合物「DAIB」

マナックは、超原子価ヨウ素化合物の一種「DAIB」を製造・販売しています。DAIBは(Diacetoxyiodo)benzene((ジアセトキシヨード)ベンゼン)の略で、Iodobenzene diacetate(ヨードベンゼンジアセタート)、Phenyliodine diacetate(フェニルヨージンジアセタート)、PIDAなどとも呼ばれます。最もシンプルな構造の超原子価ヨウ素化合物で、ヨウ素原子がベンゼン環1つとアセチル基(-OCOCH3)2つに結合した構造です。特徴や反応性は、一般的な超原子価ヨウ素化合物と同じです。

原薬の製造に適した、毒性が低く環境にやさしい酸化剤

DAIBをはじめとする超原子価ヨウ素化合物は、酸化剤としてよく使用されます。酸化剤とは、ほかの物質を酸化するための試薬です。

世の中には、超原子価ヨウ素化合物以外にもさまざまな酸化剤が存在します。しかし、医薬品原薬をつくる際にはDAIBのような超原子価ヨウ素化合物が最適です。なぜでしょうか。

実は、従来の酸化剤は鉛や水銀などの重金属を含むものがほとんどでした。しかし、重金属系酸化剤は非常に毒性が高く、原薬などの安全性を重視する化合物の合成に使用するのは困難でした。

その点、ヨウ素はうがい薬や消毒薬にも使用される安全性の高い物質です。そのため、DAIBなどの超原子価ヨウ素化合物は、毒性が低く環境にやさしい酸化剤として原薬の合成にも問題なく使用できます。従来の重金属系酸化剤と同じ反応性を示す点も大きなメリットです。

一方、超原子価ヨウ素化合物にもデメリットはあります。

1点目の問題は製造コストの高さです。超原子価ヨウ素化合物の製造には多くの工程が必要で、その製造コストは重金属系酸化剤の数倍にもなります。

2点目は、副生物の生成です。例えば、DAIBが酸化剤として働いた後には、「ヨードベンゼン」と呼ばれる副生物が生成します。生成物の純度を上げるには、ヨードベンゼンを何らかの方法で取り除く必要があるのです。

以上のようなデメリットはあるものの、超原子価ヨウ素化合物は「低毒性・安全性・効率性」を両立できるすぐれた酸化剤です。現代化学のキーワードである「グリーンケミストリー(環境にやさしい合成化学)」の実現に不可欠な試薬だと言えるでしょう。

マナックの技術力で、DAIBのデメリットを克服!

「製造コストの高さ」や「副生物の生成」といった超原子価ヨウ素化合物のデメリットを克服するため、マナックでは継続的な検討を進めてきました。

その結果、マナックは、自社で販売している超原子価化合物「DAIB」の製造コスト削減に成功しました。また、DAIBの製造後に副生するヨードベンゼンのリサイクル技術に関しても検討を進めています。

世界的に一定の市場が存在し、酸化剤以外としての用途への広がりも期待されているDAIB。マナックは今後も、DAIBの製造・販売に力を入れていきます。

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