世界に誇れる優位性、廃液のリサイクルも視野に! 高品質・低価格を実現したマナック製DAIBの秘密とは
【CAS No.】3240-34-4
【化学名】
(ジアセトキシヨード)ベンゼン
【化学式】C10H11IO4
マナックは十数年前から、医薬品原薬の製造過程で活躍する「DAIB」と呼ばれる化合物を製造・販売してきました。高品質である一方で、価格が高いのが販売上のネックになっていました。
2021年、マナックは国内原薬メーカーからの要望を受けて、高品質なDAIBをより低価格で実現するための製法改良に乗り出しました。検討過程では従来品よりも爆発性の高い不純物が副生したり、純度が上がらなかったりという品質上の壁に苦しみながらも、研究者の粘り強い努力によって無事に製法の改良を成功させました。
今回は、その後のお話です。新製法で製造したDAIBは、無事にお客さまに受け入れられたのでしょうか? そして、その後に待ち受けていた新たな壁とは? DAIBの営業担当である田中豪さんと、製法改良プロジェクトで実験を担当した延命千浩さんに話を聞きました。
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お客さまのラボ評価をクリア! しかし新たな壁が……
無事にDAIBの新製法を確立したマナック。しかし、これで終わりではありません。できたDAIBは、顧客メーカーが求める品質を本当にクリアしているのでしょうか。
田中さんはその品質を確認するため、国内原薬メーカーに少量のサンプルを渡してラボでの評価を依頼しました。しばらくして原薬メーカーから評価結果を聞いた田中さんは、胸をなで下ろしたと言います。
「我々のDAIBは従来品よりも品質が良く、反応で良い結果が得られそうだ、といううれしい評価をいただきました。マナックの技術力が認められたのだ、と感無量でしたね。さらにそのお客さまは、実機生産でご使用いただけるとのことで、大型のご注文をくださいました」(田中さん)
しかし、ここでひとつ問題が浮上しました。
最初に原薬メーカーに渡した評価用サンプルは、あくまでも小スケールで試験的に製造したもの。しかし大型注文に対応するには、一度に「大量」のDAIBを「安全」に製造する必要があったのです。
しかし、量産化には高い壁が待ち受けていました。
大スケール製造での乾燥問題をクリアして、拡販に向けて大きく前進
小スケール製造と大スケール製造には、大きな違いがあります。DAIBは粉体製品として顧客メーカーに提供されるため、製造工程の最後には反応液から取得したDAIBを乾燥させる作業が必要です。この乾燥方法が、製造スケールに応じて異なるのです。
小スケール製造の場合はDAIBの生成量が少ないため、小型容器に少量ずつDAIBを入れ、比較的低温の風を送りながら長時間かけて溶媒を飛ばす「棚式送風乾燥」で全てのDAIBを乾燥させることができます。しかし、DAIBの生産量が多くなると効率的に乾燥を行うためには大型容器内にDAIBを入れて減圧下で加熱・回転させる「コニカル乾燥」を用いる必要があります。
しかし、実はDAIBのコニカル乾燥には大きなリスクがあります。コニカル乾燥は、いわばドラム型洗濯機の乾燥モードで粉体を回転させるようなもの。DAIBのような超原子価ヨウ素化合物は爆発危険性が示唆されることから、詳細に物性を把握し、制御しなければなりません。特に乾燥時間の短縮には加熱を伴うため、熱的挙動、爆発感度と威力、危険性の高い不純物制御といった多面的な評価により、安全に取り扱いできる確信を得ることが必須だったのです。
もしコニカル乾燥できないとなると、製造コストの面で採算が合わず、DAIBを拡販できない事態にもなりかねません。この壁に挑むのが、DAIBの実験責任者である延命千浩さんの役割でした。
「コニカル乾燥しても大丈夫か判断するため、外部機関にも協力していただき、多面的に爆発性の評価を進めました。どうなることかと思いましたが、最終的には『厳密に制御すれば爆発性の危険なし』との評価が無事得られました。自社品として拡販できるかを決める重要なポイントだったので、本当にほっとしましたね」(延命さん)
工場レベルでも評価は上々
2023年4月、無事にコニカル乾燥を使用した大スケールでの製造が行われました。製造したDAIBは先ほどの原薬メーカーに納品されて、工場での原薬生産に使用されていると言います。そこでも結果は上々のようです。
「他社のDAIBを使用するより反応性が良くなった、との評価をいただきました。我々のDAIBは品質が安定しているため、生産性が向上する可能性があるというコメントもいただいています。ラボだけでなく工業品レベルでも高く評価いただいたので、今後の拡販に向けて弾みがつきました」(田中さん)
世界に誇れる優位性!反応副生物からリサイクル
実は、マナックはDAIBを「つくって売る」だけではありません。酸化剤としてDAIBを使用した後の反応副生物からヨウ素成分(ヨードベンゼンorヨウ素)を回収・リサイクルできないか検討しています。
「DAIBに含まれるヨウ素は、資源の乏しい日本で産出する貴重な資源で、この限りある資源を有効利用していかなければなりません。反応副生物として排出されるヨードベンゼンはDAIBの原料でもあるため、うまく回収して精製すれば、そこからまたDAIBを再生できます。この回収・精製を実現すれば、DAIBを使用する顧客メーカーは循環型の製造プロセスを実現できます。お客さま側の廃棄物処理が不要になる点も大きなメリットでしょう」(田中さん)
地球環境や顧客メーカーにとって多くの利点がある、DAIBのリサイクル。これも世界に誇れる優位性だと、田中さんは自信を見せます。
「DAIB使用後の反応副生物の状態はお客さま側で実施した反応によって大きく異なるため、そのままではヨードベンゼンの回収・再利用が難しいケースも当然あり得ます。そのため、お客さまが満足するリサイクルサービスを提供するには、「代替案」を用意しておく必要があります。マナックはヨウ素メーカーとも協業関係にありますので、ヨードベンゼンだけではなくヨウ素の形で副生物を回収することも可能ですし、回収液組成に応じてヨウ素メーカーの回収技術とマナックの前処理技術を融合させることで、より困難な回収案件にチャレンジすることもできるはずです。〈お客さま×ヨウ素メーカー×マナック〉の強固なパートナーシップによって、さまざまな形で副生物を回収できるのは、世界的にみても確固たる優位性でしょう」(田中さん)
多くの困難を経て、いま、まさに市場に投入されようとしている、マナックの高品質・低価格なDAIB。医薬品や電子材料、半導体をはじめ、その活躍の場は今後ますます広がると予想されます。
マナックは今後も、DAIBの製造・販売に力を入れていきます。