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技術・特許

酸化剤などとして活躍するヨージル化合物:超原子価有機ヨウ素化合物⑤:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 33

(ジハロゲノヨード)化合物、(ジアシルオキシヨード)アレーン、ヨードニウム化合物、ヨードシル化合物、イミノヨード化合物。本シリーズでは、これまで多くの超原子価有機ヨウ素化合物を取り上げてきました。

そんな超原子価有機ヨウ素化合物の紹介も、いよいよ今回が最後。ラストを飾るのは「ヨージル化合物」です。

ヨージル化合物は、酸化剤などとして利用される有用な化合物です。しかし、エネルギーが高く特定の条件下では爆発する場合もあるため、取り扱いには注意が必要です。

本記事では、ヨージル化合物の取り扱い方法も含めて、その特徴や合成法をくわしく解説します。ぜひ最後までご覧ください。

超原子価有機ヨウ素化合物とは

超原子価状態をとるヨウ素を含む有機化合物

「超原子価有機ヨウ素化合物」は、名前のとおり「超原子価」を持つ「有機ヨウ素化合物」です。

「超原子価」とは、ある原子の原子核から最も遠く離れた電子殻(ほかの原子との結合に関係する部分)が形式的に8つ以上の電子を持つことで、ほかの原子との間により多くの結合が形成できるようになった状態を指します。例えばヨウ素原子は、超原子価状態になると、下図のように複数の原子と結合できるようになります(下図左側のヨウ素原子は三価、右側のヨウ素原子は五価の状態)。このような超原子価状態をとるヨウ素を含む有機化合物が、「超原子価有機ヨウ素化合物」なのです。

超原子価有機ヨウ素化合物の紹介:ヨージル化合物

ヨージル化合物は、-IO2という官能基を持つ化合物です。アジド化合物やニトロ化合物と同じく高エネルギー化合物に分類されるため、取り扱いには注意が必要です。

以下に、実験室で用いられるヨージル化合物を3つ紹介します。

代表的なヨージル化合物「ヨージルベンゼン」

ヨージルベンゼンはヨードキシベンゼンとも呼ばれる結晶性の固体で、mp230℃。250~253℃で爆発的に分解するため、「無溶媒で加熱を行わないように注意する」「ドラフト内で扱う」といった注意が必要です。

会合により高次構造をとっており、水に対する溶解度は12℃で2.8g L-1、100℃で12g L-1。熱した酢酸にはよく溶けますが、一般の有機溶媒には難溶または不溶です。両性化合物で、強い無機酸やアルカリ金属と塩をつくります。

市販されていないため、実験室では、必要に応じてヨードベンゼンまたはヨードシルベンゼンを過酸や次亜塩素酸で酸化して調製します。

穏やかな酸化剤や脱水素剤として利用される「2-ヨージル安息香酸(IBX)」 

続いてご紹介するのは、実験室で穏やかな酸化剤や脱水素剤としてよく利用される2-ヨージル安息香酸(IBX)です。

IBXは、1-ヒドロキシ-1,2-ベンゾヨードキソール-3(1H)-オン-1-オキシドというヘテロ環構造の化合物(下図)です。2-ヨード安息香酸を酸化すると容易に製造できます。

比較的安定で扱いやすいため、用途が広く市販もされています。ただし、乾燥させると衝撃により爆発的に分解するため注意が必要です。

IBXの合成例を以下に示します。

アルコールをカルボニル化合物に酸化する「Dess-Martin試薬」

続いて紹介するのは、IBXのトリ-O-アシル誘導体であるDess-Margin試薬(1,1,1-トリアセトキシ-1,1-ジヒドロ-1,2-ベンゾヨードキソール-3(1H)-オン)(下図)です。この試薬は、アルコールをカルボニル化合物に変換する穏やかな酸化剤として使用されます。

白色~微黄色の結晶性粉末で、mp124℃(分解)。クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、ジクロロメタンに可溶で、エーテルやヘキサンに微溶です。

Dess-Margin試薬は通常の条件下では安定に扱えますが、還元剤や可燃物と接触したり混合したりすると、発火や爆発の危険があります。また、加水分解を受けるとIBX(乾燥状態で爆発的に分解しやすい化合物)が生成する点にも注意が必要です。実際、Dess-Margin試薬は過去に市販されていた時期もありましたが、事故があったため現在は販売が中止されています。

Dess-Margin試薬の合成にはIBXを使用します。合成例は以下のとおりです。

【コラム】ヨージル化合物が、フレキシブルな有機ELを実現する!?

スマートフォンやテレビのディスプレイなど、私たちの身のまわりで活躍する有機EL(Organic Electro-Luminescence)。実は、今回紹介したIBXやDess-Martin試薬とも関わりがあるんです。

有機ELは、「電気による有機物の発光現象」を活用したデバイスのこと。電極(陽極と陰極)、正孔注入層(陽極から正孔を注入させる層)、電子や正孔の輸送層、発光層などから構成されます。両電極から発生した正孔と電子が発光層で結合すると、発光する仕組みです。

発光層や正孔注入層などの電荷輸送性薄膜を形成するには、高速回転させた基板の上にワニス(材料樹脂を溶剤に溶かしたもの)を滴下してコーティングした後、高温で焼成させる必要があります。しかし、最近は従来のガラス基板ではなく薄くてフレキシブルな樹脂基板が用いられるケースも多いため、樹脂基板にダメージを与えないよう、従来よりも低温で焼成する技術が求められていました。

そこで登場するのが、今回紹介する特許技術(WO2018012416A1)です。本特許は、「低温で焼成しても良好な電荷輸送性を有する電荷輸送性薄膜を与えるワニスを開発した」というもの。このワニスに、本記事で紹介したIBXやDess-Martin試薬が含まれているのです。具体的には、IBXやDess-Martin試薬を電荷輸送性物質とともに有機溶媒に溶解させてワニスを調製します。

上記ワニスを使用して有機ELの正孔注入層を形成すれば、ワニスを低温で焼成したとしても、素子の電流効率を損なわずに駆動電圧の低減や輝度特性の向上が図れるとのこと。さらに、本特許のワニスから得られる薄膜は、帯電防止膜や有機薄膜太陽電池の正孔捕集層などとしての使用も期待できるそうです。

薄くてフレキシブルな有機ELの実現に貢献し得る、ヨージル化合物。今後の活躍が楽しみですね。

マナックは、超原子価有機ヨウ素化合物の製造・販売を承っています。特に、DAIB((ジアセトキシヨード)ベンゼン)は大幅な製造コスト削減に成功していますので、高品質な製品を低コストで提供することが可能です。

以下のメールアドレスまで、ぜひお気軽にお問い合わせください。
chemia@manac-inc.co.jp

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Sharefkin, J. G., Salzman, H. Org. Synth. Coll. Vol. V, 665 (1973).
3) Formo, M. W., Johnson, J. R. Org. Synth. Coll. Vol. III, 486 (1955).
4) Boeckman, R. K. Jr, Shao, P. et al. Org. Synth., 2000, 77, 141; Coll. Vol. X, 696 (2004).

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