高純度を実現する製造特許/マナックが誇る芳香族ハロゲン化反応技術
マナックの特許の取り組みについて知財・研究企画推進室の高橋さんに話を聞いた前回の記事に引き続き、今回はマナックが芳香族のハロゲン化についての3つの製法特許を紹介します。
複雑な化合物の中間材をつくるマナックでは、「有機化合物の純度を高めたい」というお客様の要望に応えるため、芳香族をハロゲン化する際に、目的とした化合物の純度を高める製法を開発し、その一部を特許として出願しています。
3つの製法特許は、医薬品や太陽光発電、有機ELなど広い分野で応用できる技術なので、各分野から注目を集めています。
■ この記事でわかること ✔ マナックは芳香族のハロゲン化において不純物を抑える技術特許を持つ ✔ これらの特許技術は医薬品や有機EL、太陽光発電などに応用可能 ✔ 特許により、製造効率の向上やコスト削減が期待される ■ おすすめ記事 ・ ディスプレイをより鮮明に、より長持ちするように/マナックが誇るハロゲン化製法特許ができたわけ ・ 臭素、ヨウ素の領域なら私たちの出番がある/村田社長が語るマナックの成長戦略
contents
従来製法が超えられなかった2つの課題を克服
炭素とハロゲンの結合は比較的弱く、少ないエネルギーで結合を切ることが可能です。芳香族のハロゲン化合物は複雑な化合物を合成する際に中間体として活用でき、直接合成するよりも容易にできるという効果があります。
中間体にハロゲン化合物を利用する方法は従来から行われていますが、高橋さんは芳香族のハロゲン化について「従来の製法には大きく2つの課題があった」と話します。
「1つ目は、狙いとしている化合物ではない不純物が同時に発生してしまい、不純物の割合が許容できる量に収まらないという点です。例えば、本来は1ヶ所にだけ付けたいハロゲンが2ヶ所以上についてしまったり、ハロゲンがつく位置がずれてしまったりすると、それは不純物となってしまいます」
「2つ目は、発生してしまった不純物を取り除くための精製が効率よくできず、狙いの化合物を生成する効率が悪化してしまうという点です」
マナックが持つ「芳香族のハロゲン化をする際に純度を高める方法」に関する3つの特許は、不純物の発生を抑えることで、2つ目の精製に関する課題も解消できるものです。
高橋さんは、こう話します。
「3つの特許技術を活用することで、化合物を生成する際に不純物精製の回数を減らすことができるため、化合物の生産効率を向上させることができます。結果として、コスト削減や製造期間の短縮にもつながります」
製法特許① 「モノカップリング体」を選択的に高い純度でつくる
1つ目の特許(国際公開番号WO2015/178342)は、芳香族の1ヶ所だけをハロゲン化した「モノカップリング体」を選択的に得られる技術です。互いに異なる2つの脱離基における反応性の差を利用しても、従来は不純物(ジカップリング体)が発生してしまっていました。
互いに異なる2つの脱離基を有する芳香族化合物を、水もしくは有機溶媒中で、水溶性パラジウム錯体と塩基を存在させて、有機ホウ素化合物と反応させることで狙い通りの芳香族化合物を得ることができるという製法特許です。
従来の製造技術では、片方の脱離部位だけを反応させてモノカップリング体を合成した例は知られていませんでした。マナックが開発し特許化した本技術を活用すると、従来よりも簡便に合成することが可能です。
製法特許② 精製が難しい「位置異性体」を発生させない
2つ目の特許(特許第6902275号)は、芳香族の環の中で、狙い通りの位置だけをハロゲン化する技術です。
狙いの位置ではない場所がハロゲン化されてしまう位置異性体は、一般的な精製方法であるカラムクロマトグラフィーを用いても精製分離が難しいので、純度を高めるためには合成時に発生させないことが重要です。
芳香族複素多環式化合物とハロゲン化剤を、ハロゲン間化合物を存在させた環境で反応させることで、不純物(位置異性体)の少ない芳香族複素多環式ハロゲン化合物が得られます。
製法特許③ 2ヶ所の脱離基に異なる種類のハロゲンを付ける
3つ目の特許(特許第6074279号)は、芳香族の2ヶ所に2種類のハロゲンを1つずつ付与したい場合に、1種類のハロゲンが2ヶ所に付くのを避ける技術です。
具体的には、芳香族ヨード化合物を塩素化して芳香族クロロヨード化合物を合成する際に、不純物の少ない芳香族クロロヨード化合物を生成する製法です。
特定の硫黄化合物とルイス酸触媒を存在させた環境で、塩化スルフリルを用いて塩素化することにより、ヨウ素が塩素で置き換えられた不純物の発生を抑制できます。
マナックに蓄積されたハロゲン化技術で「モノづくりの革新」を
前述のとおり、芳香族のハロゲン化反応をめぐるマナックの製造特許は、医薬品の製造効率や有機ELの輝度・耐久性、太陽光発電の発電効率などの向上に応用できる技術です。
高橋さんは「さまざまな分野で化合物の高純度を求める傾向は強くなっていると感じます。一例として有機ELをはじめとした電子材料の分野でいえば、現行品の弱点を補完し、性能を向上させていくために、化合物の純度は譲れない要素です。特許化した製法を公開することによって、『純度の高い化合物を生成したい』『新たな手法を開発してほしい』と思ったときに、製品開発のパートナーとして選ばれる存在になりたい」と話し、さらにこう続けます。
「芳香族のハロゲン化反応で、化合物の純度を高める製法の特許は、まだ他社からもほとんど公開されておらず、マナックが強みを持っている技術です。新製品の開発には芳香族のハロゲン化以外の反応を含む色々な技術が使われています。開発者自身もそれら技術が特許化できるかどうか気づいていないものもありますので、それらを拾い上げ、一つでも多く、特許化できればと思います」
今回披露した3つの特許は、マナックが持つ製造技術の「氷山の一角」にすぎません。熟練技術者に蓄積された製造ノウハウの中に、次世代のモノづくりを革新する技術があるかもしれません。