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技術・特許

フェノールとフェノールエーテルのヨウ素化、アニリンと関連化合物のヨウ素化:芳香族化合物のヨウ素化反応②:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 16

常温で固体として存在する、単体ヨウ素。ほかのハロゲンよりも扱いやすく危険性も低いため、ヨウ素化剤としてよく利用されています。本シリーズでは前回から、そんな単体ヨウ素を用いた「芳香族化合物のヨウ素化反応」を解説しています。

今回の記事で取り上げるのは、フェノールやアニリンなど、電子供与基で強力に活性化された芳香族化合物のヨウ素化です。

実は、活性な芳香族化合物は単体ヨウ素により分解されやすいことが知られています。分解されやすい化合物を、一体どのようにしてヨウ素化するのでしょうか。反応機構や反応例をくわしく解説しますので、ぜひ実験の参考にしてください。

単体ヨウ素による芳香族化合物のヨウ素化とは

塩素化や臭素化とは大きく異なる

「芳香族化合物のヨウ素化」と聞いて、「化合物中のどの部分をヨウ素化できるのか」「置換反応だけでなく付加反応も起こるのか」といった疑問が浮かんだ方もいるでしょう。

実は、芳香族化合物と単体ヨウ素を反応させた場合に起こり得るのは「環水素の置換」のみです。アルキル側鎖のヨウ素化や、芳香環に対するヨウ素の付加は認められません。この点で、芳香族化合物のヨウ素化は臭素化や塩素化とは大きく異なります。

また、反応条件にも特徴があります。単体ヨウ素を芳香族化合物と混合するだけでは反応が進行しないので、反応性を高めるために酸化剤または強い酸触媒を使用するのが一般的です。

単体ヨウ素による芳香族化合物のヨウ素化反応:フェノールとフェノールエーテルのヨウ素化

別の活性種を発生させてヨウ素化する

フェノールは、ヒドロキシ基によって強力に活性化された芳香族化合物です。活性な芳香族化合物は単体ヨウ素によって酸化分解を受けやすいため、単体ヨウ素を別の活性種に変化させてからヨウ素化する必要があります。

よく用いられるのは、フェノールを希薄なNaOH水溶液、NaHCO3またはNaOCOCH3水溶液、アンモニア水、エチレンジアミン水溶液などに溶かしておき、単体ヨウ素からin situに発生させた次亜ヨウ素酸HOI(以下の式を参照)によってヨウ素化する方法です。

I2 + H2O ⇌ HOI + H+ + I

また、同じく穏やかな塩基性条件下で、ヨウ素-モルホリン錯体をヨウ素化剤とする方法も知られています。フェノールがヨウ素-モルホリン錯体中のヨウ素原子を直接攻撃することで、ヨウ素化が進行します。

フェノールに上記の活性種を作用させると、最初に立体障害の小さいパラ位が、ついでオルト位が円滑にヨウ素化されます。メタ位のヨウ素化は起こりません。遷移金属塩やNaNO2を助剤として使用すると、フェノールの酸素原子に金属イオンが配位することで、高いオルト配向性が認められる場合もあります。

反応の注意点

フェノールエーテルや、不活性化基(カルボキシ基やニトロ基など)が付いたフェノールなどは、フェノールよりも反応性が低くなります。そのため、これらのヨウ素化には酸化剤を併用するケースも少なくありません。

また、活性化位置にカルボキシ基を持つフェノールはヨウ素化時に脱炭酸を起こしやすいため、反応条件に注意しましょう。

反応例

以下に、フェノールやフェノールエーテルのヨウ素化反応例を示します。

単体ヨウ素による芳香族化合物のヨウ素化反応:アニリンと関連化合物のヨウ素化

フェノールの場合と同じく、別の活性種でヨウ素化する

アニリンは、フェノールと同じく強力に活性化された芳香族化合物です。そのため、ヨウ素化反応の概要は基本的にフェノールの場合と同じです。

アニリンやその関連化合物などの芳香族アミンは、単体ヨウ素の作用で樹枝状物質に変わりやすい性質があります。そのため、単体ヨウ素からin situに発生させた次亜ヨウ素酸やヨウ素-モルホリン錯体などによってヨウ素化するのが一般的です。最初にパラ位、ついでオルト位がヨウ素化されます。メタ位のヨウ素化は起こりません。

反応の注意点

反応の注意点も、フェノールの場合とほぼ同じです。

不活性化されたアミンをヨウ素化するには、しばしば酸化剤が必要です。また、活性化位置にカルボキシ基を持つアミンはヨウ素化の際に脱炭酸を起こしやすいので、注意しましょう。

反応例

【マナックの独自技術】3-ヨードアニリンを選択的に取り出すには?

芳香族化合物をヨウ素化しても、目的の化合物が効率よく得られるとは限りません。ここで立ちはだかるのが、「異性体」の問題です。一例をご紹介しましょう。

アニリンの3位の炭素がヨウ素化された3-ヨードアニリンは、医薬品や電子材料などの中間体として有用な化合物です。しかし、3-ヨードアニリンを一般的な方法で合成した場合、異性体である2-ヨードアニリンや4-ヨードアニリンも数%程度生成してしまいます。そのため、目的物である3-ヨードアニリンのみを選択的に取り出す方法が求められていました。

この課題を解決したのが、マナックの特許技術です。マナックはヨードアニリン異性体混合物に「とある工夫」を施し、3-ヨードアニリンを99%以上もの高純度で得ることに成功しました。

果たしてマナックは、どのような方法で3-ヨードアニリンを精製したのでしょうか。くわしく知りたい方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Horiuchi, C. A., Satoh, J. Y. Bull. Soc. Chem. Jpn., 1984, 57, 2691.
3) Kiran, Y. B., Konakahara, T. et al. Synthesis, 2008, 2327.
4) Baird, Jr. W. C., Surridge, J. H. J. Org. Chem., 1970, 35, 3436.

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