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技術・特許

炭化水素のヨウ素化:芳香族化合物のヨウ素化の概要と反応:芳香族化合物のヨウ素化①:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 15

マナックが得意とする、臭素化・ヨウ素化反応について解説する本シリーズ。前回までは、「ハロゲン交換」を用いたヨウ素化反応をくわしく解説してきました。ヨウ化物は、応用分野が広く、合成方法も数多く存在します。今回からはそのようなヨウ化物の合成方法の1つ、単体ヨウ素を用いる「芳香族化合物」のヨウ素化についてご紹介します。

今回の記事では、本反応のキモである単体ヨウ素の特徴に触れた後、単体ヨウ素を用いた芳香族化合物のヨウ素化反応についてくわしく説明します。本記事を参考に、芳香族化合物のヨウ素化への理解を深めてください。

単体ヨウ素とは

ヨウ素化反応に必要な元素であるヨウ素は、殺菌性があるため古くからヨードチンキ、ルゴール液として利用されており、写真感光材などの合成原料としても重要な役割を担っています。それ以外にも、触媒、高分子の安定剤、衛生用品、食品や家畜の飼料の添加物、医薬品などさまざまな分野で利用されています。
応用分野の広いヨウ素ですが、高価であるため回収して再利用することが望まれます。反応によって発生するヨウ素廃棄物はヨウ化水素またはヨウ化アルカリであることが多いため、過酸化水素、ヨウ素酸塩、過硫酸塩、二酸化マンガンなどでヨウ素廃棄物を酸化して単体ヨウ素の状態で回収する方法が利用されています。
また、液体である単体臭素とは異なり、単体ヨウ素は固体であるため、単体臭素と比べて取り扱いが簡単であるといった利点があります。

単体ヨウ素を取り扱う際の注意点

蒸気圧が低いといった点で、他のハロゲン元素と比べると安全に扱うことができるヨウ素ですが、腐食性が強く、眼、上気道粘膜、皮膚を強く侵すため、触れたり、蒸気を吸ったりしないように十分注意してください。

また、単体ヨウ素・ヨウ化物を低濃度でも長期にわたり吸収すると、皮膚過敏症が発生する場合があります。放射線診断用のヨウ素系造影剤によるアレルギーでは、皮膚や粘膜にじんま疹が発生し、呼吸困難などの症状が現れることがあるため注意が必要です。

単体ヨウ素を用いる芳香族化合物のヨウ素化とは

単体ヨウ素による芳香族化合物のヨウ素化は、芳香環上の水素がヨウ素に置換する反応として進行します。
芳香族化合物の塩素化や臭素化の場合、この水素の置換反応以外に、例えば、芳香環のアルキル側鎖の臭素化、芳香環への塩素付加などの反応がありますが、これらの反応はヨウ素では見られません。このような点で、芳香族化合物のヨウ素化は塩素化や臭素化とは大きく異なります。

反応の種類

単体ヨウ素による芳香族化合物のヨウ素化には以下のような反応があります。反応の詳細は、本記事の後半や、次回以降の記事で解説する予定です。

a)芳香族炭化水素のヨウ素化

芳香族炭化水素とヨウ素を混合してもπ錯体が生成するのみで、その先の反応が起こりません。そのため、ヨウ素の反応性を高めるために酸化剤や強い酸触媒と組み合わせて反応を行うのが一般的です。

b)フェノールとフェノールエーテルのヨウ素化

フェノールのような活性な芳香族化合物は単体ヨウ素の作用で酸化分解を受けやすい特徴があります。そのため、穏やかな塩基性の条件下で、ヨウ素からin situに発生させた次亜ヨウ素酸によりヨウ素化を行います。ただし、その他置換基により不活性化されたフェノールや、フェノールエーテルのヨウ素化には、酸化剤が必要になることもあります。

c)アニリンと関連化合物のヨウ素化

フェノールの場合(上記b)の反応)と同様、穏やかな塩基性の条件下で、次亜ヨウ素酸によりヨウ素化を行います。

d)カルボン酸、ニトロ化合物など不活性な芳香族化合物のヨウ素化

カルボン酸やニトロ化合物のように反応性の低い芳香族化合物は、ヨウ素を銀塩や発煙硫酸と組み合わせてヨードカチオン種を発生させてヨウ素化を行います。

上記の反応には、酸化剤や酸触媒といった助剤が必要です。基質となる芳香族炭化水素と使用する助剤との組み合わせによって、以下の表に示すように収率に大きな差があります。

単体ヨウ素による芳香族化合物のヨウ素化反応:
炭化水素のヨウ素化

反応の詳細

今回紹介するのは、単体ヨウ素を用いて芳香族炭化水素をヨウ素化する反応です。ヨウ素を芳香族炭化水素へ作用させても、有色のπ錯体が生成するだけで、反応はそれ以上先に進みません。そのため、芳香環をヨウ素化するために助剤として酸化剤や強い酸触媒を使用します。

助剤の例

この反応によく使用される助剤には、以下のようなものがあります。

  •  ヨウ素酸
  •  過ヨウ素酸
  •  希硝酸
  •  トリフルオロ酢酸銀
  •  硝酸セリウム(IV)アンモニウム(CAN)

このほか、反応溶媒としては、酢酸、水、またはこれらの混合液がよく用いられます。
ただし、基質の溶解性に問題がある場合は、ジクロロメタン、クロロホルム、エーテルなどを併用した二相反応系も利用されます。

以下に、ベンゼンおよびビフェニルを基質とした場合のヨウ素化反応例を示します。

ベンゼンのヨウ素化
ビフェニルのヨウ素化

助剤や溶媒の組み合わせによるさまざまな反応と注意点 

単体ヨウ素による芳香族炭化水素のヨウ素化には助剤が必要であることを先に触れましたが、使用する助剤や溶媒によって反応が異なり、また組み合わせによっては不純物や有害物が生じる場合があります。以下に助剤、溶媒の組み合わせによるさまざまな反応と注意点を挙げますので参考にしてください。

・希硝酸を助剤として使用する反応は、操作が簡単で試薬が安価

希硝酸中で芳香族炭化水素とヨウ素を還流下に加熱するヨウ素化法は、操作が簡単で、試薬が安価なため工業的によく利用されています。硝酸塩を溶かした希硫酸中で加熱しても同様な結果が得られます。ただし、アルキルベンゼンや縮合多環系炭化水素の場合には、不純物としてニトロ化合物や酸化物をともないやすいので注意が必要です。

・重金属化合物を使用する反応は、HOIなどのヨウ素化剤を発生させるのに便利

重金属化合物、例えば、トリフルオロ酢酸銀AgOCOCF3や酸化水銀(II)HgOと、ヨウ素の組み合わせは、穏やかな条件下で、HOIや、CF3CO2Iなどのヨウ素化剤を発生させるのに便利です。また、アルコール中でこの組み合わせを使用する場合、まず、次亜ヨウ素酸エステルROIが生成し、これが分解して発生したアルコキシラジカルRO・が有機分子から水素原子を引き抜くため、分子内環化やβフラグメンテーションが起こりやすくなります。この組み合わせは、アルケンのアルコキシヨウ素化、不飽和カルボン酸のヨードラクトン化にも利用されています。ただし、反応の際に多量の金属ヨウ化物が発生することが難点となります。

・水銀塩を用いる反応には注意が必要

ヨウ素と水銀塩との組み合わせで活性な芳香族化合物をヨウ素化する場合には、有害なアリール水銀が多量に生じるため注意が必要です。

芳香族炭化水素のヨウ素化は、異種ハロゲン化合物の合成に
応用できる

今回は、単体ヨウ素による芳香族炭化水素のヨウ素化について説明してきました。
この芳香族炭化水素のヨウ素化の応用として、マナックが特に得意とする臭素(Br)とヨウ素(I)を含む異種ハロゲン化合物の合成があります。

異種ハロゲン化合物にはさまざまな種類があり、これらは主に薬や感光体材料などの中間体(パーツ)として使用されています。
異種ハロゲン化合物については、「複雑な化合物もお手のもの!「異種ハロゲン」シリーズ」で解説しています。

マナックは異種ハロゲン化合物をつくるための臭素化やヨウ素化だけではなく、異種ハロゲン化合物を使った各種カップリング反応も得意としており、中間体の製造から高次化合物の生産までを一括して請け負うことが可能です。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Datta, R. L., Chatterjee, N. R. J. Am. Chem. Soc., 1917, 39, 435; 1919, 41, 292.
3) Baird, Jr W. C., Surridge, J. H. J. Org. Chem., 1970, 35, 3436.
4) Sugita, T., Idei, M. et al. Chem. Lett., 1982, 1481.
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6) Wirth, H. O., Königstein, O. et al. Liebigs Ann. Chem., 1960, 634, 84.
7) Birckenbach, L., Goubeau, J. Chem. Ber., 1932, 65, 395.
8) Tronov, B. V., Novikof, A. N. Izv. Vyssh. Uschech. Zaved., Khim. Khim. Technol., 1960, 3, 872; Chem. Abstr., 1961, 55, 8348.
9)Peng Zhang et al. Adv. Synth. Catal., 2012, 354, 720.
10)Varma, P.S., Krishnamurti, M. J. Indian Chem. Soc., 1937, 14, 156.

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