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技術・特許

臭化水素を用いた臭素化反応(アルコールやフェノール、芳香環のブロモメチル化):臭化水素④:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 37

マナックが得意とする臭素化・ヨウ素化反応について解説するシリーズは、前回、臭化水素の「アルケンへの付加」と「アルキンへの付加」を解説しました。条件を変えるだけで同じ基質から異なる生成物が得られる、非常に便利な方法でしたね。

今回取り上げるのは、臭化水素を用いた「アルコールやフェノールのブロモメチル化」と「芳香環のブロモメチル化」です。どちらも目的物が好収率で得られる優れた方法ですが、うまく適用できる基質が限られる場合もあるので注意が必要です。

この記事では、反応の原理や特徴、注意点などをまとめて解説します。実験を成功させるためにも、ぜひ最後までご覧ください。

臭化水素を用いた臭素化反応:ブロモメチル化

アルコールやフェノールのO-ブロモメチル化

アルコールのO-ブロモメチル化は高収率で進行する

アルコールROHにパラホルムアルデヒド(CH2O)nを懸濁させて乾燥したHBrを通じると、O-ブロモメチル化が起こり、対応するブロモメチルエーテルROCH2Brが好収率で得られます。

低級アルコールから生成した低級のブロモメチルエーテルは湿った空気中で発煙し、常圧で蒸留を試みると分解してしまいます。また、催涙性が強く、皮膚や粘膜を刺激するため注意が必要です。一方、高級アルコールのブロモメチルエーテルは安定に扱えます。

アルコールのO-ブロモメチル化の反応例を以下に示します。

フェノールのO-ブロモメチル化は注意が必要

フェノールも、アルコールと同様にO-ブロモメチル化されます。ただし、置換基の導入などにより活性化されたフェノールの場合は、芳香環のブロモメチル化が優先的に起こります。そのため、反応の設計には注意が必要です。

チオールでも同様の反応が起こる

アルコールの酸素原子を硫黄原子で置換したチオールRSHも、アルコールと同様にブロモメチル化されてブロモメチルスルフィドRSCH2Brとなります。

一例として、チオフェノールをブロモメチル化する反応を以下に示します。

芳香環のブロモメチル化

臭化水素とホルムアルデヒドから臭化ベンジルを得る

芳香族炭化水素へ臭化水素とホルムアルデヒドを作用させると、芳香環のブロモメチル化が起こり、対応する臭化ベンジルが比較的好収率で得られます。この方法は、臭素を用いてメチルアレーンの側鎖をラジカル的に臭素化する方法では臭化ベンジルがうまく得られない場合に有用です。

ホルムアルデヒドの発生源としてはパラホルムアルデヒド(CH2O)nが一般的ですが、ホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液で、市販品は濃度30~35%)、トリオキサン、ジメトキシメタンなども使用できます。また、臭化水素の代わりに臭化水素酸やNaBr-濃硫酸を用いる場合もよくあります。反応の進行が遅い場合には、ZnCl2、SnCl4、Al2Cl6、リン酸、硫酸などの酸触媒を添加します。

芳香環のブロモメチル化の反応例を以下に示します。

反応機構

芳香環のブロモメチル化は、以下の機構で進行します。

反応はベンジルアルコールの生成を経由して進行するため、臭化水素の濃度が低いと、ベンジルアルコールと芳香環の反応で生成するジアリールメタンが主生成物となります。また、臭化ベンジルは反応性に富むので、高温で反応を行うとジアリールメタンが生じやすくなります。

うまく適用できる基質は限られる

今回紹介している芳香環のブロモメチル化は、古くからBlanc-Quelet反応として有名なクロロメチル化とは異なり、うまく適用できる基質の範囲がかなり限られるのが現状です。

例えば、「アルコールやフェノールのO-ブロモメチル化」の章で説明したように、フェノールやチオフェノールは、芳香環ではなくヒドロキシ基やチオール基がブロモメチル化されます。また、ニトロベンゼンや安息香酸などの強い電子求引性基をもつ化合物は反応しません。強い電子供与性基をもつフェノールやアニリンはこの反応条件下では樹脂化しやすいため、官能基をアセチル基で保護して反応性を適度に下げる必要が出てきます。

【コラム】便利だが注意が必要なブロモメチル化試薬:4-クロロブチル(ブロモメチル)エーテル

本記事の「②芳香環のブロモメチル化」では、ホルムアルデヒドと臭化水素を用いた芳香族化合物のブロモメチル化を解説しました。しかし実は、芳香族化合物をブロモメチル化する方法は他にも存在します。その方法は、意外にも「クロロメチル化」をヒントに生まれました。

芳香族化合物のクロロメチル化には、古くからクロロメチルエーテルと呼ばれる試薬が用いられてきました。こう聞くと、「であれば、ブロモメチル化にはブロモメチルエーテルが使えるのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、ブロモメチルエーテルは不安定で扱いにくいため、そのままではブロモメチル化には使えませんでした。

そこで、ブロモメチルエーテルの欠点を補うために考案されたのが4-クロロブチル(ブロモメチル)エーテル(1-ブロモメトキシ-4-クロロブタン)です。この試薬を使えば、ZnBr2、SnCl4、TiCl4などのLewis酸触媒の存在下で芳香族炭化水素を容易にブロモメチル化できます。常温常圧下では液体として存在し、蒸気圧が低いため眼や喉をあまり刺激しない点もメリットです。

ただし、当然ですが注意点もあります。4-クロロブチル(ブロモメチル)エーテルは、クロロメチルエーテルと同様に発がん性が指摘されているのです。そのため、換気性のよいフード内で使用するようにしてください。

4-クロロブチル(ブロモメチル)エーテルを用いて芳香環をブロモメチル化する例を、以下に示します。

【コラム】ポリマーの改質で活躍する臭化ベンジル

本記事の「②芳香環のブロモメチル化」の生成物として登場した臭化ベンジル。実は、ポリマーの改質にも使われていることをご存じですか?

Richardらは、防弾チョッキなどに使用されるパラアラミド合成繊維Kevlarやその他の不活性ポリマー材料を光化学的に染色するための試薬として、臭化ベンジル部位を含む二官能性ジアジリン試薬を報告しています9)

この試薬は、紫外線下で活性化して繊維分子に結合します。その後、求核性染料が臭化ベンジル部位を攻撃することで置換反応が起こり、染料が繊維分子に結合します。この染色工程は温和な条件で実施でき、染色後の繊維は洗濯しても色落ちしにくいそうです。将来的には、臭化ベンジルの力でより多様な色の防弾チョッキが販売されるようになるかもしれませんね。

※本記事末尾の参考文献 9)内、Fig. 1

マナックは、臭素化・ヨウ素化反応における世界的なリーディングカンパニーです。臭素化・ヨウ素化反応にお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Lucien, H. W., Mason, C. T. J. Am. Chem. Soc., 1949, 71, 258.
3) Blair, C. M., Henze, J. Am. Chem. Soc., 1932, 54, 399.
4) Bright, W. M., Cammarata, P. J. Chem. Soc., 1952, 74, 3690.
5) Bredereck, H., Bäder, E. et al., Chem. Ber., 1954, 87, 784.
6) Kubiczek, G., Neugebauer L. Monatsh., 1950, 81, 917.
7) Bailey, P. S., Smith, J. C. J. Org. Chem., 1956, 21, 628.
8) Olah, G. A., Beal, D. A. et al. Synthesis, 1974, 560.
9) Richard, Y. L., Shao-Xiong, L. L. et al. Polym. Chem., 2023, 14, 4205.

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