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技術・特許

臭化リンを用いた臭素化反応(臭素とリン):臭化リン②:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ40

マナックが得意とする臭素化・ヨウ素化反応について解説する本シリーズは、前回から「臭化リンを用いた臭素化反応」に入っています。

今回紹介するのは、臭素とリンを使用した臭素化方法です。この方法では、臭素とリンから発生した「とある化合物」が臭素化試薬として機能します。果たして、「とある化合物」とは一体何なのでしょうか?また、「とある化合物」を系内で発生させることにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

気になる方は、ぜひ最後までご覧ください。

臭化リンを用いた臭素化反応:臭素とリンによる反応

反応①:アルコールからブロモアルカンの合成

臭素とリンから発生したPBr3を利用

前回の記事でも説明したように、実験室でアルコールをブロモアルカンに変える際にはPBr3がよく利用されます。しかし、ブロモアルカンを大規模に合成するには大量のPBr3を購入する必要があるため、あまり経済的とは言えません。

そこで登場するのが、今回のテーマである「臭素とリンを使用する」方法です。この方法では、基質アルコール中でリンに臭素を作用させ、発生したPBr3in situに利用して臭素化を行います。高価なPBr3を購入する必要がないため、より安価に反応を実施できるのです。

アルコールと赤リンの混合物に臭素を滴下する

黄リンは有機溶媒に溶けて反応性も優れますが、毒性が強く自然発火性を示します。そこで、無毒で安定な赤リンを基質アルコール中に懸濁させた状態で使用するのが一般的です。

アルコールと赤リンからなる反応混合物を激しくかきまぜながら、反応熱で穏やかな沸騰が持続する程度の速さで臭素を滴下します。1グラム原子のリンに対して臭素2mol程度を使用するのが適当です。真空乾燥させた赤リンを用いると誘導期間をおいて反応が暴走することもあるため、注意してください。

臭素とリンを用いたアルコールからブロモアルカンの合成例を、以下に示します。

反応②:カルボン酸のα位の臭素化(Hell-Volhard-Zelinsky法)

赤リンと臭素を用いてカルボン酸を臭素化する

赤リンと臭素を使えば、アルコールだけでなくカルボン酸も臭素化できます。その一例が、古くから知られるカルボン酸の臭素化方法「Hell-Volhard-Zelinsky法」です。具体的な反応機構を以下に示します。

RCH2C(=O)OH + PBr3 → RCH2C(=O)Br + HBr                      式(1)

RCH2C(=O)Br +Br2 → RCHBrC(=O)Br + HBr                         式(2)

RCHBrC(=O)Br + H2O → RCHBrC(=O)OH                             式(3)

RCHBrC(=O)Br + R’OH → RCHBrC(=O)OR’                           式(4)

まず、赤リンと臭素の反応でin situに発生したPBr3により、カルボン酸が酸臭化物に変化します(上記の式(1))。ここで、赤リンの代わりにほかのハロゲン化リン(III)や塩化チオニルを用いても同様の効果が認められます。

続いて、酸臭化物が互変異性化したエノールと臭素の反応により、α-ブロモカルボン酸の酸臭化物が生成します(上記の式(2))。これを水で処理すればα-ブロモカルボン酸が(上記の式(3))、アルコールで処理すればα-ブロモエステルが得られます(上記の式(4))。

臭素と赤リンを用いたα-ブロモカルボン酸とそのエステルの合成例を、以下に示します。

不飽和カルボン酸には使用できない

このように便利なHell-Volhard-Zelinsky法ですが、不飽和カルボン酸に適用するとオレフィン結合への臭素付加が優先してしまい、うまくα-ブロモカルボン酸を得ることができません。Hell-Volhard-Zelinsky法を使用する際は、基質の構造に注意しましょう。

【コラム】アルコールからブロモアルカンを合成するためのさらなる選択肢!臭化アルカリによる臭素化とは?

本シリーズではこれまで、アルコールからブロモアルカンを合成するためのさまざまな方法を紹介してきました。例えば、臭化水素を用いる方法や、前回解説したPBr3を用いる方法、今回の記事で紹介したリンと臭素を用いる方法などです。

実は、アルコールからブロモアルカンを合成する方法はほかにも存在します。そのひとつが、「アルコールをスルホン酸エステルに変えてから臭化アルカリと反応させる」ものです。この方法は中性に近い条件下で実施できるため、酸の作用で異性化しやすいアリル構造をもつアルコールや、酸に敏感な保護基をもつアルコールに最適です。

反応の中間体としてよく利用されるのは、p-トルエンスルホン酸4-CH3C6H4SO3H(TsOH)のエステル(トシレート)やメタンスルホン酸CH3SO3H(MsOH)のエステル(メシレート)です。ピリジンの存在下で標的アルコールにp-トルエンスルホニルクロリドやメタンスルホニルクロリドを作用させると容易に合成でき、通常は単離せずにそのまま使用します。

以下は、アルコール中のOH基をTsO基に変換した後、LiBrを作用させてTsO基をBrに変える反応例です。

このように、アルコールからブロモアルカンの合成には多くの選択肢があります。各場面で最良の方法を選択できるよう、ぜひそれぞれの反応を復習してみてくださいね。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Goshorn, R. H., Boyd. T, Org. Synth. Coll. Vol. I, 36 (1941).
3)Smith, C. W., Norton, D. G. Org. Synth. Coll. Vol. IV, 348 (1963).
4) Marvel, C. S. Org. Synth. Coll. Vol. III, 848 (1955).
5)Price, C. C., Judge, J. M. Org. Synth. Coll. Vol. V, 255 (1973).

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