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技術・特許

穏やかな酸化剤として有用な(ジアシルオキシヨード)アレーン:超原子価有機ヨウ素化合物②:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 30

前回に引き続き、「超原子価有機ヨウ素化合物」を解説します。

超原子価有機ヨウ素化合物は、酸化剤や脱水素剤、官能基の導入試薬などとして利用される化合物です。水銀やタリウムといった有害元素の代替試薬としても使えるため、環境に優しい化合物として近年注目を集めています。

本記事でご紹介するのは、そんな超原子価有機ヨウ素化合物の一種、(ジアシルオキシヨード)アレーンです。穏やかな酸化剤として有用なこの化合物、実はマナックとも非常に深い関係があります。本記事でその全貌を明らかにしていきますので、ぜひ最後までご覧ください。

超原子価有機ヨウ素化合物とは

超原子価状態をとるヨウ素を含む有機化合物

「超原子価有機ヨウ素化合物」は、名前のとおり「超原子価」を持つ「有機ヨウ素化合物」です。

「超原子価」とは、ある原子の原子核から最も遠く離れた電子殻(ほかの原子との結合に関係する部分)が形式的に8つ以上の電子を持つことで、ほかの原子との間により多くの結合が形成できるようになった状態をいいます。例えばヨウ素原子は、超原子価状態になると、下図のように複数の原子と結合できるようになります(下図左側のヨウ素原子は三価、右側のヨウ素原子は五価の状態)。このような超原子価状態をとるヨウ素を含む有機化合物が、「超原子価有機ヨウ素化合物」なのです。

超原子価有機ヨウ素化合物の紹介:(ジアシルオキシヨード)アレーン

超原子価有機化合物の合成原料などとして活躍

(ジアシルオキシヨード)アレーンは、ヨウ素原子がアレーン1つとアシルオキシ基2つに結合した構造の化合物です。カルボン酸の溶液中でヨードアレーンを過酸化水素や過酸で酸化すると合成できます。ヨードシルアレーンを酸無水物でアシル化する合成法も知られています。

扱いやすい安定な化合物であり、超原子価有機ヨウ素化合物の合成原料や、穏やかな酸化剤として有用です。また、乾いた冷暗所でなら分解せずにかなりの期間保存できる点もメリットです。

(ジアシルオキシヨード)アレーンの中でも代表的なのが、以下に示すDAIBです。DAIBは(Diacetoxyiodo)benzene((ジアセトキシヨード)ベンゼン)の略で、Iodobenzene diacetate(ヨードベンゼンジアセタート)、Phenyliodine diacetate(フェニルヨージンジアセタート)、PIDAなどとも呼ばれます。最もシンプルな構造の(ジアシルオキシヨード)アレーンで、試薬や合成原料として幅広く活用されています。

DAIBについてくわしく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

(ジアシルオキシヨード)アレーンの合成法

(ジアシルオキシヨード)アレーンは、さまざまな方法で合成できます。反応例は以下のとおりです。

(ジアシルオキシヨード)アレーンを用いたヨウ素化反応

(ジアシルオキシヨード)アレーンを試薬として使えば、さまざまな化合物をヨウ素化できます。今回は、ヨウ素化方法を2パターンご紹介しましょう。

ヨウ化テトラアルキルアンモニウムを使用する方法

(ジアシルオキシヨード)アレーンにヨウ化テトラアルキルアンモニウムを作用させると、下式のようにジアシルオキシヨウ素(I)酸のアンモニウム塩が発生します。

C6H5I(OCOCH3)2 + (C2H5)4N+I → [(C2H5)4N]+[I(OCOCH3)2] + C6H5I

このアンモニウム塩はSimonini錯体[AgI(OCOCH3)2]に類縁の構造を持ち、分解すると次亜ヨウ素酸アシルを発生するため、ヨウ素化剤として働きます4)。反応例は以下のとおりです。

活性メチレン化合物を使用する方法

1,3-ジケトン、β-ケトエステル、マロノニトリルなどの活性メチレン化合物から発生させたカルボアニオンを(ジアシルオキシヨード)アレーンと反応させると、下式のように安定なヨードニウムイリドが生成します5)。このイリドをNBSやNISと反応させると、gem-ジハロゲノ化合物が得られます。

C6H5I(OCOCF3)2 + K+[CH(CO2CH3)2] → [C6H5I]+[C(CO2CH3)2] + CF3CO2K + CF3CO2H

【コラム】臭素を含む超原子価化合物も存在するの?

前回から扱ってきた『超原子価「ヨウ素」化合物』は、その名のとおり「ヨウ素」を含む超原子価化合物です。それでは、本シリーズのもう1つの主役元素である「臭素」を含む超原子価化合物も存在するのでしょうか?

実は、超原子価臭素化合物の研究はヨウ素に比べてほとんど進んでいません。臭素はヨウ素よりもイオン化ポテンシャルが大きく(例:ヨードベンゼンは8.69eV、ブロモベンゼンは8.98eV)、一価の臭素を三価や五価の状態に酸化するのは非常に難しいためです。

とは言え、臭素はヨウ素よりも調達しやすい魅力的な原料であり、利用しないのはある種の機会損失です。また、イオン化ポテンシャルから予想すると、超原子価臭素化合物は超原子価ヨウ素化合物に比べて優れた反応性を示すことが期待されます。そのため、「何とかして超原子価臭素化合物を有機化学分野で活用したい!」と各地で研究が進められています。

例えば、2021年には、千葉大学の研究グループが世界で初めてキラルな超原子価臭素化合物の開発に成功したと発表しました。この化合物により、医薬品原料が効率的に合成できるようになると期待されています。

超原子価ヨウ素化合物の影に隠れながらも、大きな可能性を秘めた超原子価臭素化合物。興味を持たれた方は、ぜひ一度調べてみてくださいね。

マナックは、超原子価有機ヨウ素化合物の製造・販売を承っています。特に、DAIB((ジアセトキシヨード)ベンゼン)は大幅な製造コスト削減に成功していますので、高品質な製品を低コストで提供することが可能です。

以下のメールアドレスまで、ぜひお気軽にお問い合わせください。
chemia@manac-inc.co.jp

マナックの高品質・低コストなDAIBは、マナック研究者の粘り強さによって生み出されました。何度失敗してもあきらめずに検討を続ける。そんな研究者の開発ストーリーを知りたい方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Sharefkin, J. G., Saltzman, H. Org. Synth. Coll. Vol. V, 660 (1973).
3) Hossain, Md. D., Kitamura, T. Synthesis, 2005, 1932.
4) Doleschall, G., Gabor, T. Tetrahedron, 1980, 36, 1649.
5) Neimanis, D., Neiland, O. Zh. Org. Khim., 1970, 6, 633.

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