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技術・特許

高純度化・コスト削減・GSCを実現/臭素を使ったマイクロフロー合成研究最前線

技術・特許, 製品

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マイクロフロー合成は、さまざまな化合物の製法として期待を集め、周辺設備などの開発も進んでいます。マナックも、化合物の「高純度化」を実現する方策の一つとして、カップリング反応の原料向けに、強みを活かしたマイクロフロー合成の製法開発に取り組んでいます。現在の開発フェーズ、開発を進める思いなどについて、「湘南ラボ」で研究をしている片上勇太さんに話を聞きました。

バッチ合成とマイクロフロー合成の特徴

バッチ合成は、すべての原料をフラスコに投入し、反応が終了したら生成物を取り出す手法で、ほとんどのファインケミカル製品がバッチ合成で製造されています。反応後は、必要に応じて生成物の分離や精製などで、化合物の純度を高めていきます。

原料をすべて混ぜ合わせるだけで複雑な化合物の合成が可能です。しかし、反応が均一に進まないことがあり、不純物が生じやすい点がデメリットです。純度を高めるためには、不純物の精製を繰り返し行う必要があり、それにより廃棄物が多く発生する点は「グリーンサスティナブルケミストリー(GSC)」の観点から望ましくない場合があります。

一方で、マイクロフロー合成は原料を管型の反応器である専用のリアクターに流しながら、連続的に合成を行う手法です。短時間で行われる反応を連続的に行うことで、副反応が起きにくく、不純物が生じにくいので、精製が不要となって廃棄物が発生しにくい点は大きなメリットです。他にも、以下のようなメリットがあります。

● 連続反応なので、作業者の監視などの人的負担削減が可能
● 反応容器の大きさ以上の量を合成できるため、省スペース性に優れる

一方で、原料を流しながら合成を行うため、液体でない原料を用いると配管が閉塞してしまう可能性があります。また、腐食性の高い原料は配管を腐食させてしまう可能性があるため、設備の材質も気にする必要があります。

一般的にバッチ合成で製造されている化合物でも、実際にはマイクロフロー合成で作る方が望ましいものがあります。例えば、以下の図で示した有機金属試薬におけるグリニャール反応のように、バッチ合成では−35℃の低温環境下での合成で70.6%の収率です。一方でマイクロフロー合成の場合は、50℃未満であれば問題ないため常温で反応させることができ、かつ93.9%と高い収率を実現しています。このように、求める化合物にもよりますが、マイクロフロー合成によって反応を制御することで、バッチ合成に比べて高い収率を実現することが可能です。

V.Hessel,et al.,Org.Proc.Res.Dev.,2004,8,3

マイクロフロー合成とは

マイクロフロー合成は、フロー合成の中でも反応の単位を小さくすることで、原料の混合比を適切に制御し、緻密な反応を高い精度で行う手法です。

大がかりな設備を使用しないため、省スペース、コスト削減が可能です。さまざまな製品向けにマイクロフロー合成の適用が検討される中で、マイクロ径の微小流路であるマイクロフローリアクターの種類が豊富になり、配管閉塞を防止するための小型超音波発生装置など、周辺設備の開発も進んでいます。

要求が高まる「高純度」の実現にマイクロフロー合成を選択した理由

近年、電子機器などでは製品の高性能化競争が進むにつれて、材料に対する要求も厳しくなり、不純物の少ない高純度の材料が必要とされています。

片上さんは、「マナックは、さまざまな受託開発を通して、バッチ合成で不純物が発生しにくくする製造法や発生した不純物を効率よく精製する方法について、技術開発を行ってきました。一方で、この方向性だけでは顧客ニーズに応えられない案件もあり、解決策を模索していました。学会などに参加する中で、解決に繋がる可能性のあるシーズ技術を見つけ、課題を解決できる手段の一つとして、マイクロフロー合成に着目しました」と話します。

例えば、カップリング反応の原料として、芳香族化合物の臭素化体が必要とされることがあります。これはバッチ合成でも製造できますが、純度を高めるには、不純物の精製を繰り返し行う必要があり、コストが高くなってしまいます。

「バッチ合成ではコストの点でメーカーの選択肢に入らない材料でも、マイクロフロー合成であれば低コストで高い純度を実現できる場合があります。顧客からの要望を実現することに加えて、マナックが顧客の要望を超える提案をすることで、より高い性能を低コストで実現できる可能性があります」と片上さんは、マイクロフロー合成に対する期待を話し、さらにこう続けます。

「本来は、臭素はフロー合成に向いていません。腐食性が高い点や水よりも比重が高いため高性能なポンプが必要な点から、専用の設備と制御技術が必要です。これは、臭素を長く扱ってきたマナックだからこそ実現でき、他社と差別化できる技術だと考えているので力を入れて取り組んでいます」

マイクロフローリアクター

ラボでの検証から製品化の検討へ

新しい化合物を製造する場合、市場調査・ラボでの検証・工場での生産検討を終えることで、製品ラインナップへの棚入れが完了します。片上さんが取り組んでいる、芳香族化合物の臭素化体をマイクロフロー合成で製造する方法は、ラボでの検証も終盤を迎え、次は工場で生産するための設備設計を行うフェーズです。

「ラボでの検証だけでなく量産設備の設計や棚入れまで、工場の技術部門とも協力しながら進めていきたいと考えています」(片上さん)

マイクロフロー合成は、有機化学に関する知識や技術だけでなく、流体力学やポンプなどの設備、化学工学などの幅広い知識が必要となります。難易度の高いマイクロフロー合成の製法開発について、片上さんはこう話します。

「マイクロフロー合成はバッチ合成と比べて歴史の浅い技術で、社内でも取り組んでいる人は多くありません。一方で、応用範囲は広く、トレンドになっている技術です。製法開発から生産検討まで経験することで、社内でマイクロフロー合成の相談してもらえるような立場になれたらと思っています。マイクロフロー合成でしか実現できない反応条件や反応式の開発を実現したいです」

会社でも有機合成の研究を続けるために埼玉からマナックへ

片上さんは埼玉県出身で、東京理科大学大学院を卒業し、マナックに入社しました。大学では、有機化学分野の研究室に所属し、超分子の金属錯体の合成と物性評価により、高性能な触媒を作る研究に取り組んでいました。

「就職活動の時期に、研究室のメンバーがマナックという会社があることを教えてくれて、翌日合同説明会に参加したら、たまたまマナックが出展していたので、話を聞いたのが入社のきっかけです。就職してからも自分が好きな有機合成の経験を活かせる点や製法開発に注力しているので、面白い会社だと思いました」

就職後、縁のなかった広島・福山で生活しましたが、「福山は生活しやすい街です。関東で有機化学を学んでいる学生で広島に就職する人は多くないので、いろいろと話のネタになります。また、帰省時にも福山駅には新幹線が止まるので便利でした」と話します。

現在は、自社製品や技術の開発を進める「湘南ラボ」でマイクロフロー合成に取り組んでいます。

「マナックは、ニッチな分野で強みを持っており、大学までで取り組んできた有機化学の知識や経験を存分に活かせる。より多くの学生たちにマナックという会社を知ってもらい、一緒に技術開発をしていきたいです」

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