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技術・特許

アルカンのヨウ素化:脂肪族化合物のヨウ素化反応①:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 18

これまで数回、「単体ヨウ素」を用いた「芳香族化合物」のヨウ素化反応を扱ってきた本シリーズ。今回からは、同じ「単体ヨウ素」を用いた「脂肪族化合物」のヨウ素化反応を解説していきます。

脂肪族化合物と一言で言っても、アルカンやアルケン、アルキンなどその種類はさまざまあります。当然、ヨウ素化反応の特徴もそれぞれ異なります。脂肪族化合物のヨウ素化をマスターするには、各反応の類似点や相違点を整理して、体系的に理解することが重要です。

この記事では、最初にさまざまな脂肪族化合物のヨウ素化反応をダイジェストで紹介した後、1つ目の反応として「アルカンのヨウ素化」をくわしく解説します。

単体ヨウ素による脂肪族化合物のヨウ素化とは

本シリーズでは今後、以下のヨウ素化反応を順に解説していきます。
(「①アルカンのヨウ素化」は本記事の後半で、「②アルケンのヨウ素付加」~「⑤カルボン酸と関連化合物のヨウ素化」は、次回以降の記事でくわしく取り上げる予定です)

アルカンのヨウ素化
一般に、アルカンを単体ヨウ素で直接ヨウ素化するのは困難です。しかし、酸化剤の併用やラジカル種の発生などによって、直接ヨウ素化できるケースもあります。

アルケンのヨウ素付加
アルケンへのヨウ素付加は、イオン機構またはラジカル機構で進行します。しかし、反応の進行が遅く生成物が不安定なので、合成法としての用途は限られています。

アルキンのヨウ素化
「アセチレン結合にヨウ素が2個付加する」パターンと、「末端アルキン炭素がヨウ素化される」パターンの2つがあります。いずれの反応も比較的円滑に進行する点が特徴です。

カルボニル化合物のヨウ素化
カルボニル化合物をヨウ素化する方法には、収率が低い、立体障害の影響を受けやすい、大量合成に適さないといった欠点がありました。近年では、反応を円滑に進めるための改良法がいくつか検討・報告されています。

カルボン酸と関連化合物のヨウ素化
反応条件を整えた上でカルボン酸を単体ヨウ素と加熱すれば、α-ヨードカルボン酸やα-ヨードアシルクロリドを得ることができます。α-ヨードアシルクロリドを得る反応は、「ケテンの発生」「ケテンに対するヨウ素付加」という2段階で進行すると予想されています。

単体ヨウ素による脂肪族化合物のヨウ素化反応:アルカンのヨウ素化

単体ヨウ素による直接的なヨウ素化は、基本的に難しい

単体ヨウ素は反応性が低い上に、生成物であるヨードアルカンは熱、光、酸触媒などに対してあまり安定ではありません。そのため、塩化物や臭化物とは異なり、アルカンを単体ヨウ素で「直接的に」ヨウ素化するのは一般に困難です。

そこで通常、ヨードアルカンを合成する際には、ハロゲン化アルカンなどを出発物質とする「間接的な」方法が採用されます。例えば、以下のような方法です。

・塩素、臭素、エステル基などの官能基をヨウ素イオンで置換する方法
・有機金属化合物やエノラートアニオンへ単体ヨウ素を作用させる方法

(※これらの方法についてくわしく知りたい方は、以下の記事をご覧ください)

酸化剤やラジカル種などを活用すれば、直接的なヨウ素化も可能

それでは、アルカンを単体ヨウ素で直接的にヨウ素化するのは夢物語なのでしょうか?

実は、酸化剤の存在下や、ラジカルが連鎖的に発生する条件下では、単体ヨウ素による直接的なヨウ素化も可能です。しかし、一般的には収率が低く、激しい反応条件を必要とするため、対象となる化合物は限られます。

上記の欠点を克服するため、実験室では、光励起や電子移動を利用して穏やかな反応条件でラジカル種を発生させる工夫も行われています。このように発生させたラジカル種をヨウ素で捕捉すれば、アルキル鎖をヨウ素化することができるのです。

シクロアルカンの中には、単体ヨウ素と反応しやすいものもある

シクロアルカンもアルカンと同様、単体ヨウ素とは反応しにくい化合物です。しかし、シクロプロパンは室温でも簡単にヨウ素化開裂され、1,3-ジヨード化合物に変わることが報告されています2)

また、単体ヨウ素とナトリウムtert-ブトキシドを組み合わせると、熱反応条件下、外部からの光刺激なしでシクロヘキサンをヨウ素化できるとの研究もあります3)。この研究では、20 mol%の臭素を添加することで、反応の再現性と収率が向上したと報告されています。

【コラム1】殺虫剤としても活躍するヨードメタン

本記事で紹介した「アルカンのヨウ素化」によって生成する、ヨードアルカン。中でも、最も単純なアルカンである「メタン」の1つの水素原子をヨウ素原子で置換した化合物が、「ヨードメタン」です。

実はこのヨードメタン、殺虫剤の成分としても使用されていることをご存じでしょうか?

ヨードメタンが防除対象生物(害虫や病原菌など)を殺す原理は、以下のように予想されています。最初に、ヨードメタンが土壌や作物の内部に浸透します。その後、土壌や作物中に存在する防除対象生物の構成成分が、ヨードメタンを求核攻撃します(求核置換反応)。その結果、防除対象生物内の必須酵素が働かなくなり、これらの生物は死に至るのです。

ヨードメタンは、私たちの食卓を陰から支える存在でもあったのですね。

【コラム2】ジヨードメタンと医薬品の意外な関係とは?

続いては、ヨードメタンの水素原子をさらに1つヨウ素で置換した、「ジヨードメタン」に関する話題です。

ジヨードメタンはさまざまな場所で活躍しています。例えば、以下のようにアルケンをシクロプロパン化する反応では、反応試薬としてジヨードメタンが使用されます(シモンズ・スミス反応)。

実は、医薬品原薬中には、上記のようなシクロプロパン骨格がよく見られます。原薬を標的タンパク質にうまく結合させる上で、シクロプロパン骨格が重要な役割を果たすためです。そのため原薬メーカーでは、原薬化合物内にシクロプロパン骨格を形成するため、ジヨードメタンが活用されています。

マナックでは、原薬メーカー向けに、「ジヨードメタンの提供からシクロプロパン化反応の実施、副生物として発生するヨウ素の回収・リサイクル」までを一括で請け負うビジネスを展開しています。詳細は、以下の記事をご覧ください。

 参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Davalian, D., Garratt, P. J. J. Am. Chem. Soc., 1975, 97, 6883.
3) Montoro, R., Wirth, T. Synthesis, 2005, 1473.

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