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技術・特許

アルキンのヨウ素化:脂肪族化合物のヨウ素化反応③:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 20

常温で固体として存在するため、ほかのハロゲンよりも扱いやすい単体ヨウ素。その特性から、ヨウ素化剤としてもよく利用されています。

今回の記事で取り上げるのは、そんな単体ヨウ素を用いたアルキンのヨウ素化反応です。

アルキンのヨウ素化には、「分子内のアセチレン結合にヨウ素原子が付加するパターン」と、「末端アルキン炭素に結合した水素原子をヨウ素原子に置換するパターン」の2種類があります。いずれも容易に進行するため、これらの反応に関する知識はヨウ化物を合成する上で大いに役立つはずです。

今回も反応機構や反応例などをくわしく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

単体ヨウ素による脂肪族化合物のヨウ素化反応:
アルキンのヨウ素化

①アセチレン結合のヨウ素付加

反応はかなり円滑に進行し、生成物も容易に取り出せる

アルキンの三重結合に対する単体ヨウ素の付加は、アルケンの二重結合に対する付加に比べるとかなり円滑に進行する点が特徴です。この付加反応はアルケンの場合と同じく、ヨードニウムイオン中間体を経由したanti付加機構で進行します。

また、アルキンのヨウ素付加には単体ヨウ素のほか、ヨウ素を溶かしたKI溶液や、ヨウ化アルカリと硫酸銅からin situに発生させたヨウ素などもよく利用されます。

生成物である(E)-1,2-ジヨードアルケンは比較的安定なものが多いため、取り出しは容易です。ただし、光や微量の単体ヨウ素の作用でE/Z異性化を起こしやすい点には注意しましょう。

以下に、アルキンに対するヨウ素付加の反応例を示します。

アルコールやチオールなどを使えば、ヘテロ環化合物の合成も可能

分子内にアセチレン結合をもつアルコール、チオール、エノン、カルボン酸などを上記と同様に反応させると、不飽和結合のヨウ素化で発生したヨードニウムイオン中間体が分子内のヘテロ元素官能基(ヒドロキシル基など)からSN2攻撃を受けて、対応する環状のエーテル、スルフィド、エステルが好収率で得られます。

この形式の反応は、基質の構造をうまく工夫すれば複雑な骨格を1段階で構築できるため、医薬品や天然物関連のヘテロ環合成に広く利用されています。代表的な反応例は以下のとおりです(関連反応についてくわしく知りたい方は、本記事末尾の参考文献6)~10)をご覧ください)。

末端アルキン炭素のヨウ素化

共役で活性化されたアルキンの場合:比較的容易にヨウ素化できる

アリールアセチレンやビニルアセチレンのように不飽和結合との共役で活性化された1-アルキンは、ヨウ素・モルホリン錯体で処理したり、液体アンモニア中でヨウ素を作用させたりすることで、末端アルキン炭素が比較的容易にヨウ素化されます。反応例は以下のとおりです。

また、KIとt-ブチルヒドロペルオキシドを用いれば、上記の反応を温和な条件下で行うこともできます12)

アルキルアセチレンの場合:有機金属試薬などが必要

アルキルアセチレンは、アリールアセチレンやビニルアセチレンと同様の方法ではヨウ素化できません。有機リチウム、Grignard試薬、金属ナトリウムなどでいったん金属アセチリドに変えたのち、ヨウ素を作用させて末端炭素をヨウ素化します。反応の一例を以下に示します。

反応の注意点

末端炭素がヨウ素化された1-アルキンは、さらにヨウ素を付加してポリヨードアルケンへ変化しようとする傾向が強いため、反応時に過剰量のヨウ素を用いてはいけません。過剰なヨウ素の使用を避けるための便利な方法としては、反応系内でKIへNaOClを作用させてHIOを発生させ、これでアルキン炭素をヨウ素化する方法が提案されています。

また、ヨードアセチレンやヨードジアセチレンは高エネルギー化合物なので、乾燥状態では爆発する危険性があります。保管方法などには十分注意しましょう。

【一息コラム】
(ヨードエチニル)ベンゼンは放射性プローブとして有用?

本記事で解説した、末端アルキン炭素のヨウ素化反応。この反応で合成される(ヨードエチニル)ベンゼンが、近い将来、病気の発見に一役買うかもしれません。

現在の医療現場では、放射性同位元素で標識した化合物「放射性プローブ」を用いた画像診断や放射線治療などが行われています。放射性ヨウ素を含む化合物も、有用な放射性プローブの1つです。

従来、放射性プローブとしてはヨウ化アリールやヨウ化アルケニルが好んで用いられてきました。しかしFerrisら14)は、末端アルキン炭素がヨウ素化された(ヨードエチニル)ベンゼンの方がヨードフェノールよりも代謝安定性が高く、放射性イメージング用のプローブとしてより有用な可能性があることを示したのです。Ferrisらは現在、実応用に向けてさらなる研究を進めていると言います。

末端アルキン炭素のヨウ素化反応は、さまざまな分野で活用されているのですね。

参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Heasley, V. L., Shellhamer, D. F. J. Org. Chem., 1980, 45, 4649.
3) Bridges, A. J., Fischer, J. W. Tetrahedron Lett., 1983, 24, 445.
4) Yao, T., Campo, M. A. et al. J. Org. Chem., 2005, 70, 3511.
5) Yao, T., Yue, D. et al. J. Org. Chem., 2005, 70, 10292; ibid. 2006, 71, 62.
6) Pacote, C. G., de Carvalho, B. S. et al. Synthesis, 2009, 3963.
7) Dowle, M. D., Davies, D. I. Chem. Soc. Rev., 1979, 8, 171.
8) Cardillo, G., Orena, M. Tetrahedron, 1990, 46, 3321.
9) Robin, S., Rousseau, G. Tetrahedron, 1998, 54, 13681.
10) Ranganathan, S., Muraleedharan, N. K. et al. Tetrahedron, 2004, 60, 5273.
11) Vaughan, T. H., Nieuwland, J. A. J. Am. Chem. Soc., 1933, 55, 2150.
12) Reddy, K. R., Venkateshwar, M. et al. Tetrahedron Lett., 2010, 51, 2170.
13) Kloster-Jensen, E. Tetrahedron, 1966, 22, 965.
14) Ferris, T., Carroll, L. et al. Tetrahedron Lett., 2019, 60, 936.

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