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技術・特許

開始剤などとして活躍するヨードニウム化合物:超原子価有機ヨウ素化合物③:臭素化・ヨウ素化反応解説シリーズ 31

グリーンケミストリーや省エネルギーなどの観点から、「超原子価有機ヨウ素化合物」は近年注目を集めています。環境にやさしい次世代型の研究開発を進める上で、超原子価有機ヨウ素化合物に関する知識は必須とも言えるでしょう。

これまでに、超原子価有機ヨウ素化合物の一種である「ジハロゲノヨード化合物」と「(ジアシルオキシヨード)アレーン」を解説してきました。これらは、ハロゲン化試薬や酸化剤として活躍する有用な化合物です。

今回は、「ヨードニウム化合物」と呼ばれる超原子価有機ヨウ素化合物を紹介します。構造や性質、合成法などをくわしく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

超原子価有機ヨウ素化合物とは

超原子価状態をとるヨウ素を含む有機化合物

「超原子価有機ヨウ素化合物」は、名前のとおり「超原子価」を持つ「有機ヨウ素化合物」です。

「超原子価」とは、ある原子の原子核から最も遠く離れた電子殻(ほかの原子との結合に関係する部分)が形式的に8つ以上の電子を持つことで、ほかの原子との間により多くの結合が形成できるようになった状態を指します。例えばヨウ素原子は、超原子価状態になると、下図のように複数の原子と結合できるようになります(下図左側のヨウ素原子は三価、右側のヨウ素原子は五価の状態)。このような超原子価状態をとるヨウ素を含む有機化合物が、「超原子価有機ヨウ素化合物」なのです。

超原子価有機ヨウ素化合物の紹介:ヨードニウム化合物

ヨードニウム化合物とは

ヨウ素原子に2個のアルキル基またはアリール基が結合し、ヨウ素原子が二価のカチオン構造を持つ化合物はヨードニウム化合物と呼ばれます。一般式は[RR’I+]Xです。中でもXがOHのものはヨードニウム塩基と呼ばれ、第四級アンモニウム塩基に似た挙動を示す強塩基です。

ヨウ化水素HIを「ヨーダン(iodane)」とするIUPACの命名法を適用すると、ヨードニウム化合物は形式的には「λ3-ヨーダン」に分類されます。しかし、三価の超原子価ヨウ素を持つ一般的なλ3-ヨーダンは擬三角形のバイピラミダル構造を有するのに対し2)、今回ご紹介するヨードニウム化合物はオクテット則を満たす四面体のオニウム構造を有する点で、両者は大きく異なります3)。現在のところ、四面体構造を持つλ3-ヨーダンは知られていません。

性質の異なるさまざまな化合物が存在する

ヨードニウム化合物は、ヨウ素原子に結合している分子の構造に応じて安定性が変化します。

脂肪族のヨードニウム化合物は芳香族ヨードニウム化合物に比べて安定性が劣るため、実験室ではあまり使用されません。一方、芳香族ヨードニウム化合物は長期保存が可能なほど安定な化合物も少なくはなく、一部の化合物は試薬としても入手できます。

芳香族ヨードニウム化合物は、アレーンの存在下でヨードアレーンの酸化、酸触媒によるヨードシル化合物とアレーンとの縮合、有機金属化合物とヨウ素化合物との反応などにより合成されます。芳香族ヨードニウム化合物の合成例は以下のとおりです。

錯イオンは安定な結晶として単離できる

ヨウ素カチオンI+自体は古くからヨウ素化の活性種としてよく知られており、分光学や反応速度論の研究によってその存在が確認されています。しかし、ヨウ素カチオンを遊離状態で取り出すことは不可能でした。

しかし、[I(CH3CN)2]+PF6や[I(CH3CN)2]+[AgF6]のように配位子で安定化された錯イオンの状態では、多くの化合物が安定な結晶として単離され、分子構造が解明されています。一部の錯塩は、試薬として市販もされています。

※ヨードニウム化合物についてよりくわしく知りたい方は、本記事末尾の参考文献7)~10)もご覧ください。

【コラム】ヨードニウム化合物は、歯科治療の接着剤にも使われる?

今回紹介したヨードニウム化合物が歯科分野でも活躍している11)12)ことをご存じですか?

歯を治療するときは、虫歯部分を削って詰め物を埋め込みますよね。この「詰め物」の一種に「コンポジットレジン」と呼ばれる樹脂材料があります。いわゆる「白い詰め物」です。コンポジットレジンを使うと、金属やセラミックなどの詰め物を使う場合に比べて歯を削る量が少なくて済みます。そのため、コンポジットレジンは天然の歯をより多く残すための手段としてよく採用されています。

コンポジットレジンを治療に使う際は、まず歯の該当部分に接着剤を塗布して予備重合させ、その上からコンポジットレジンを重ねて硬化させます。つまり、接着剤とコンポジットレジンの両方を硬化させる必要があるのです。そのため、これらの材料には重合開始剤として働く成分が含まれています。よく用いられるのは、カンファーキノン(CQ)と三級アミンの組み合わせからなる光ラジカル開始剤(CQ/アミン開始剤)です。

ところが、CQ/アミン開始剤には課題もあります。この開始剤を反応させるには可視光を照射する必要があるのですが、CQは可視光領域の吸収が弱いため、結果として硬化速度が遅くなるのです。「それではCQの量を多くすればいいのではないか」と思うかもしれませんが、そうすると着色や変色が起こりやすくなってしまいます。つまり、CQ濃度を増加させて硬化を加速するだけでは社会実装する上で限界があるのです。

そこで登場するのが、今回取り上げた「ヨードニウム化合物」です。

CQ/アミン開始剤に酸化剤であるヨードニウム化合物を加えると、開始ラジカルの生成が加速され、硬化速度が増加することが知られています。実際、CQ/TMA/DPIH開始剤を用いると、CQ/TMA開始剤を用いた場合と比べて最大重合速度が約5倍増加したとする研究結果もあります(TMA:N,N,3,5-テトラメチルアニリン、DPIH:ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート)13)

歯科治療とヨードニウム化合物。一見関係なさそうな組み合わせですが、実は深いつながりがあるのですね。

マナックは、超原子価有機ヨウ素化合物の製造・販売を承っています。特に、DAIB((ジアセトキシヨード)ベンゼン)は大幅な製造コスト削減に成功していますので、高品質な製品を低コストで提供することが可能です。

以下のメールアドレスまで、ぜひお気軽にお問い合わせください。
chemia@manac-inc.co.jp

 参考文献

1) 鈴木仁美 監修、マナック(株)研究所 著、「臭素およびヨウ素化合物の有機合成 試薬と合成法」、丸善出版
2) Alcock, N. W., Countryman, R. M. J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1977, 217.
3) Olah, G. A. et al. Onium Ions, Wiley (1998).
4) Zefirov, N. S., Kasumov, T. M. et al. Synthesis, 1993, 1209.
5) Hossain, Md. D., Ikegami, Y. et al. J. Org. Chem., 2006, 71, 9903.
6) Yoshida, M., Osafune, K. et al. Synthesis, 2007, 1542.
7) Stang, P. J., Zhdankin, V. V. Chem. Rev., 1996, 96, 1123.
8) Zhdankin, V. V., Stang, P. J. Chem. Rev., 2002, 102, 2523.
9) Zhdankin, V. V., Stang, P. J. Chem. Rev., 2008, 108, 5299.
10) Merritt, E. A., Olofsson, B. Angew. Chem. Int. Ed., 2009, 48, 9052.
11) YAMAKIN株式会社開発部、「高分子技術レポートvol.9 歯科材料における開始剤成分としてのヨードニウム塩の利用」、https://www.yamakin-gold.co.jp/technical_support/webrequest/pdf/kobunshi09_1709w.pdf
12) 坂本猛ほか、「歯科接着材の化学(Chemistry of Dental Adhesives)」、https://www.jstage.jst.go.jp/article/adhesion/52/5/52_5-6/_pdf
13) Cook, W. D., Chen, F. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 2011, 49, 5030.

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